突然温かい感触に手を包まれて、佐助は酷く狼狽した。
 佐助は突然の接触を好まない。というよりも寧ろ他人に触られること自体が嫌いだ。しかし己の手を握っているのが唯一の例外である主人だとわかってふと力を抜く。
 それがわかったのか、幸村が苦笑した。
 「すまぬ、つい。」
 「や、旦那ならいーけどさ。びっくりした。どしたの突然?」
 佐助の掌は未だ幸村の両の手の中にある。いつも騒いでいるため血の巡りがいいのかそれとも炎の力を有しているからか、その掌は驚くほど温かい。肌を通して、じんわりと佐助の掌までも温めていくようだ。
 うむ、と頷きながら、幸村は手の中にある戦忍の手に視線を落とす。
 「あまり綺麗なものではないな。」
 「・・・そりゃそーでしょ。男の手だし。オマケに戦忍だし。傷だらけのゴツゴツになりますって。」
 そう答えながら、幸村の言う意味が外見だけでなく、もっと他の意味を含んでいるのだとしたらと思い佐助はひやりとした。
 影で働く存在として、数え切れないほどの命を奪ってきた手だ。それも真っ当ではない方法をとったことも多々ある。幸村が裏を含むような発言をしないことは承知しているが、それでもこの人に責められることが時分には一番堪えることだと常々思っているから、つい余計なところにまで気を回してしまう。
 戸惑う佐助を余所に、幸村は目の高さまで佐助の手を持ち上げると、にこりと無邪気に笑った。
 「しかしこの幸村を守ってくれる大事な手だ。そう思うと愛しく思ってな。」
 それでつい触ってしまったのだと、至極当たり前のように告げた幸村の言葉に、佐助は忍にあるまじき間の抜けた顔を晒して、暫くの間硬直する羽目になった。
 ようやく我に返ったときには、もうどうにでもしてくれという心境で、ゆっくりと詰めていた息を吐き出す。
 この人は。自分は破廉恥だの何だのとうるさいくせに、こういうことを平気で言ってのけるのだ。自覚も気負いもないからか、それらの言葉は余計佐助の心を揺さぶり、そしてとても幸せな気分にさせる。
 己の手がこれからも血に汚れようがどうなろうが構わない。こんな手でも、幸村を守れるのならば、この人が愛しいと言ってくれるのならば、自分でさえも大切に思うことができそうだ。
 佐助が今まで自分の手を握ってくれていた幸村の掌を柔らかく握り返すと、幸村は信頼しきった顔で笑み崩れた。この人がこうやって笑っていてくれるように、不恰好な自分の手で精一杯守っていきたいと思う。






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