紅で繋ぐ



※現代パラレル






 腰の辺りから、ひらりひらりとまるで尻尾のように揺れる紅い細布。幸村のその奇異な姿はやけに目立った。紅い色が似合うからなおのこと。
 廊下の先にその姿を見かけた元就は、紅に惹かれるように、思わず後輩を呼び止めた。
 「真田。」
 「おお、元就殿!今お帰りですか?」
 足を止めてこちらを振り返った幸村に近付き、よくよく観察してみれば、その紅い布―――所謂、リボンと呼ばれるものは、幸村の右の小指から伸びている。可愛らしくちょうちょ結びをされて。
 元就が注視しているのに気付いたのか、幸村は己の手を顔の辺りまで上げた。
 「ああ・・・これは、クラスの女子に結ばれたのです。」
 「何故。」
 「似合うから、と言われました。女子というものは変わった趣味をしておられますな。」
 実を言うと、始めは髪の毛に結ばれそうになったらしい。しかし幸村がそれでは女子のようだと嫌がったので、次は首を候補にあげた(その選択もいかがなものかと思うが)。勿論これも幸村は断り、それで結局小指に結ばせてくれと一生懸命に頼まれ、指一本くらいにならと幸村も承諾したらしい。
 確かに、似合う。可愛らしい、と言ったらきっと幸村はすぐに外してしまうだろうから言わないが。
 まだじっと小指を見つめる元就の様子に何を勘違いしたのか、幸村は笑顔で元就の手をとった。
 「?」
 「元就殿にも、結んで差し上げましょう。」
 止める間もなく、幸村は己の小指から一方だけ長く垂れたちょうちょ結びの先を元就の左の小指に結んでいく。しかしあまり長さに余裕が無いことと、自分の手も結ばれていることがあって、同じようにちょうちょ結びにすることは無理だったのか、固く真結びをされてしまった。
 別に自分に結んで欲しかったわけではないが、不器用ながらも熱心に自分の指にリボンを結ぶ幸村の顔は元就の目を喜ばせた。おまけに元就と幸村の小指は紅いリボンで繋がれた状態である。己には似合わぬと思っていたが、これはこれであまりにも有名な、所謂「運命の恋人は赤い糸で小指が繋がっている」というジンクスを思い出させ、元就は密かに満足げな笑みを浮かべた。
 元就の指に結ぼうと動かしたせいか、今度は幸村の小指にかかっていた結びが解けそうだったので、元就が固く真結びにしてやる。これでどちらの指からも、この紅いリボンが容易に外れることはあるまい。
 「真田。今日もこれからあの三馬鹿と帰るのか?」
 元就の言う三馬鹿とは、佐助・政宗・元親のことだ。元就はいつも彼らをこう呼ぶので、幸村も疑問を挟まずそれに頷く。
 「教室で待っているはずでござる。」
 「そうか、ならば共に行こう。我も奴らに用がある。」
 どうせなら、見せびらかしてやろう。常日頃から異常なまでに幸村を構い倒す彼らはきっと羨ましがり、そして嫉妬に怒り狂うに違いない。
 しかし元就の提案に、幸村は少し困ったような顔になる。
 「ですがこのままでは。歩きにくいではないのですか?」
 「・・・こうすればよい。」
 赤いリボンで繋がれた、幸村の右手を元就は左手でそっと握った。幸村はちょっと驚いた顔をしたが、すぐに笑顔に変わり無邪気に握りなおしてくる。
 さて、この状態で会う三馬鹿の反応が楽しみだ。元就は左手に幸村の手の温かさを感じながら、足取りも軽く一年の教室へと向かった。





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