うん、きっと二人がいい
「あたたかい5題」(リライト


※学園パラレル



 物好きな奴、としか評しようがない。
 元就は動きは平素と変わらず本を捲りながら、視線だけちらと窓際に投げかけた。そこではしゃんと背筋を伸ばして座った幸村が、風に髪を遊ばせながらグラウンドを眺めている。
 幸村の視線の先では誰かが昼休みの時間を使って外でサッカーなりバスケットなりを楽しんでいるのだろう。にぎやかな喧騒が元就の耳にも届いた。
 幸村は外の輩と同じように、静かに過ごすことより身体を動かすことの方を何倍も好んでいると記憶している。そうやって眺めているくらいならこの部屋を出てとっとと参加すればよいのに、何故か幸村は毎日決まってグラウンドではなく元就のいる生物室へと訪れた。
 元就は教室の喧騒から逃れ一人読書を楽しむためにわざわざ明智の管轄であるこの生物室を選んでいるのだが(他の生徒からは理科関係の教室は全て明智の趣味が入り乱れているため不気味でしょうがない・近寄りたくないと評判だ。しかし元就は明智が生物室よりも織田関係者がたむろっている理事長室に近い化学室を好んでいることを理解しているので誰もよりつかないこの教室を頻繁に利用させてもらっている。あの不気味な男が近付いてくる気配など何m離れていてもわかるので万が一のときは早々にここを離れるだけだ)幸村がこの部屋に来る目的は定かではない。全く関係も興味もなさそうに思えるのだが、昼食を食べ終わってから後の時間は此処で過ごすと決めているようだ。毎回礼儀正しく断りを入れてから入室し、元就から少し離れた席に座り、今日のようにグラウンドを眺めたり、濁って何が潜んでいるのだかわからない水槽の中を懸命に覗いたりと、穏やかに時間を潰している。
 この部屋にいるときの幸村はいつもの暑苦しい行動が嘘のように静かだ。幸村の固く引き結ばれた口元のラインを無意識に目で辿りながらぼんやりとそう考える。
 「―――某がいては、気が散りますか?」
 その声に、思考から現実へと引き戻された。窓の外を眺めていたはずの幸村は困ったようなはにかんだような笑みを浮かべて元就を見つめている。どうやら元就の視線に気付いていたらしい。成る程、勘は悪くないようだ。
 「本を読むのに邪魔になるようであれば某は―――。」
 「否、・・・。」
 言葉を遮ってまで、反射的に出た否定の言葉に元就は驚いた。確かに自分は誰にも邪魔されず一人読書に勤しむ空間を求めてこの生物室にやってきたはずなのに。事実今まで手元の文庫本ではなく幸村に意識を奪われていたというのに。
 何故か、幸村の存在を不思議に思えど、邪魔ではないと思う自分がいる。
 「・・・構わぬ。居たければ好きにすれば良い。」
 元就の言葉を聞いた幸村は、一寸驚いたように目を見開き、それから嬉しそうに顔を綻ばせてまた窓の外へと視線を戻した。
 それを見届けてから元就もようやく本へと視線を移す。けれども意識は相変わらず幸村に残したまま。
 自分らしくない。だが不快ではない。たまにはこういうことがあってもいいだろうと元就は知れずひっそりと笑みを溢した。










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