執着よりも、強く



※かなり趣味をつめこんだパラレルになってます。ある人たちの立場が逆転。
仲良し真田主従・伊達主従が好きな方はご覧にならないほうがよろしいかと。



















 夕餉に呼ぶために、小十郎がやけに静まり返っている主君の部屋の襖を開けると、文机に突っ伏して眠る幸村の姿が視界に入った。
 これも上に立つ者の仕事だと言って、山ほどの書類を幸村に渡したのは朝餉を済ませたすぐのこと。外で走り回る方が性に合っているというのに、生真面目な性格からか、一日随分頑張ったのだろう。どうやら日が落ちるよりも幸村の瞼が落ちる方が先だったらしい。仕様のない方だ、と思いつつも、あどけない寝顔に頬が緩む。
 小十郎が幸村に仕えるようになったのは、まだ主が幼名で呼ばれていた頃だ。元は別の主人に仕えていた小十郎の父があらぬ疑いをかけられ城を追われ親子ともども傷だらけになりながら逃れたところを幸村の父・昌幸から拾われた。その恩義に報いるために、父は昌幸に、小十郎は幸村に仕えるようになった。無邪気に小十郎の名を呼びながらあとをついてくる姿を知っているからか、いつまでもこの主には厳しくなりきれない。
 今日はこのまま甘やかしてやろうと、幼いころよくそうしてやったように抱き上げて寝床に運ぶため主の傍に近寄った小十郎だったが、ふと表情を険しくすると、眼光鋭く天井を睨んだ。
 「・・・どこの軍の者だ。人の主の部屋に土足で上がるとは・・・命取られる覚悟で来てんだろうなぁ?」
 ドスの利いた声で凄むと、暫くして幸村の部屋の隅に影が静かに降り立つ。庇うように眠る幸村の前に立ったまま、その正体を見極めようと小十郎は眼を凝らした。
 動きと言い、気配の消し方と言い、敵は忍。それも幸村の部屋にまで忍び込むとは相当の手練れだ。
 身に纏うのは闇の色ではなく迷彩色の装束。腰の左右に光る大きな手裏剣。
 ―――本人を見るのは初めてだが、心当たりがある。
 「・・・・・・どこの命知らずかと思えば、猿飛佐助、か。」
 「おや、片倉サンに知られてるなんて、俺様結構有名人〜?」
 飄々とたたずむ姿は、隙だらけのように見えて全く隙を窺わせない。挙句名を呼ばれてあっさりと認めるとは、それだけ自分に自信があるということか。食えない奴だと小十郎は片頬を持ち上げた。
 「実力があるやつはそれだけ名も売れるさ。・・・だがここに忍び込むなんて無謀な真似をするとは・・・日本一の忍びだって言う噂はガセだったってことか?」
 「こっわいなぁ。」
 小十郎が腰に身につけている愛刀に手を懸け殺気を送っているというのに、それを真正面から受けている佐助はけたけたと笑っている。随分と暢気なものだ。
 この状況を正しく読めない只の愚か者か、それとも状況を読んだ上でそれでもどうにでもなると己の実力に絶対の自信を持つ者か。どちらでも己の前に立つのなら斬るまでだが、後者だとしたら厄介だ。
 「っていうかよく俺の気配に気づいたね?これでも自信あったんだけど・・・流石片倉サンってとこ?虎の若子の右腕は伊達じゃない、か。」
 「フン。気づいたのは俺だけじゃねぇさ。」
 そこで佐助は初めて表情を変えた。小十郎に庇われて寝ていたはずの幸村が、いつの間にかその手に愛槍を構えて、佐助の傍に移動していたからだ。
 「―――ッ!!」
 剣の達人と名高い小十郎の殺気に晒され意識を向けていたとはいえ、気付かぬうちにここまで接近を許したことに佐助は眼を見開くと、佐助は顔の前に両手をあげて”降参”の意を示した。
 「あちゃ〜・・・俺様今日は失敗しすぎ。主に怒られちゃう。」
 「猿飛佐助。確か伊達軍に仕えている忍びだったな。独眼竜に命を受けて某の屋敷へと忍び込んだか。」
 「いや、竜の旦那は何にも言ってないぜ?これは俺様の好奇心・・・ッと!」
 佐助は僅かな動きで煙幕を使うと、瞬身の術で幸村の部屋から移動し、すぐ傍に生えた木の上へと降り立った。
 「貴様ァッ!!」
 「待て!小十郎!!」
 追おうとする小十郎を、幸村が諌める。佐助はそんな二人を見ながら軽く肩を竦めた。
 「そぉんな怖い顔しないでよ。別に俺はあんたらを攻撃しにきたわけじゃないんでね。」
 「じゃあどういうつもりだ・・・!?」
 警戒を緩めようとしない小十郎とは逆に、佐助はにこりと笑う。
 「言ったでしょ?好奇心。竜の旦那がやけに若虎の旦那に執着してるみたいだったからね。どんな人か見てみたいってのと、判断するためかなぁ。」
 「独眼竜が、某に・・・?」
 「判断だと?」
 「まぁ竜の旦那が執着するのもわかるかな。アンタを倒すのと、それともアンタに仕えるの、どっちが面白いだろうね?」
 「何をふざけたことを―――ッ!」
 今度こそ斬りかかろうとした小十郎の視界から、佐助の姿が消える。次に声が聞こえてきたのは随分遠くからだった。
 『―――今日は分が悪いから帰るよ。また会いに来るから、それまで元気でねお二人さん―――・・・・・・。』
 見渡せども、既に気配はない。やはり噂に上るほどの実力がある忍びは一筋縄ではいかないらしい。
 しかしどんなに力を持とうが、己の使える主の部屋に忍び込むなど許し難いことだ。次に会った時は何があろうと刀の錆にしてやると決めた小十郎は、ふと幸村の方を振り返る。
 複雑な色を湛えた主の眼と、視線が交わった。
 「幸村様・・・?」
 「奥州の独眼竜・・・伊達政宗殿、か。・・・気になるか?」
 「・・・・・・・。」
 かつて、小十郎の父が仕えていたというのは伊達家だ。小十郎も政宗に仕えるものとあの事件が起こるまでは当たり前のように思っていた。遠目からであるが幼い政宗を見たこともある。
 だが。
 「・・・私の主は、幸村様おひとりですよ。」
 伊達家から逃れ真田家に拾われた日から、小十郎は己の主は幸村であると己の心に定めた。幸村に害をなすとあれば、小十郎は躊躇いなく刃を政宗に向けるだろう。
 幸村が、笑う。いとけない信頼をまっすぐに向けるその顔に、今までどれほど救われてきたことか。
 小十郎は今一度辺りを探り敵の気配がないことがわかると、主を促し部屋へと戻るために歩き出す。
 「さて、すっかり眠気が覚めてしまったようでございますな。夕餉を食べたらやりかけの書類の続きでもしていただきましょうか。」
 「・・・・・・小十郎は時々意地悪だ。」
 「冗談です。今から鍛錬は流石に付き合えませぬが、話し相手くらいなら務めさせていただきますよ。」
 「うむ。そう言えば最近二人でゆっくりするということもなかったな。なら某が満足するまで付き合え。」
 「御意に。」
 可愛らしい我儘を言う幸村の髪に手を伸ばし、指先を絡ませる。
 天下を目指し争いが続くこの世の中で、戦場こそがこの人の生き場所なのだとしても、己の手の届く場所にいる限りどんな障害ですら寄せつけたくないとそう強く思った。










趣味に突っ走って本当にすいません…!
でも本人はかけて満足です。

現在ではお互い恋愛感情は自覚してない感じで。
そういうごたごたが始まるとしたら、奥州と同盟でも結ぶかどうかして
政宗さんや佐助さんが幸村さんにちょっかいだしまくるのに切れた小十郎さんが行動を起こしてくれれば
大変楽しいです。

ぎすぎすした政宗さんと佐助さん主従もかこうかと思ってたんですが
あの二人の妙に色気のある雰囲気がきっと出せないと思って断念しました。








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