僕に許された唯一のこと





 「アンタをあの人の処へなんて、行かせてあげない。」
 立ち上る土煙りの中、対峙した竜に佐助はゆるりと微笑んでみせた。にらみ合う竜も、戦で高揚した気をそのままに顔に浮かべる。
 「Ha・・・テメェの主は俺との決着を望んでる筈だぜ?」
 「そうだね。でも主の身の安全を守るために、時折命令に逆らうのも俺様の役目。」
 飄々と語られる口調はあくまで軽いものなのに、纏う雰囲気は酷く殺伐としている。
 佐助は、目の前の竜のことが嫌いで仕方がなかった。主以外の生き物は基本的にどうだっていいし、主に害なす生き物は唾棄すべきものでしかないけれども、その中でも一等、目の前の男はいけすかない。
 感情のベクトルに相反するように、佐助の顔に浮かぶ笑みは深く深くなっていく。
 「ねぇ、羨ましい?」
 挑発するように、囁いた。竜の口元がぴくりと歪む。
 「俺はね、真田幸村の忍びなんだ。」
 主の名を紡ぐとき、佐助の口調はとても甘く蠱惑的なものになる。主には見せぬ彼の表情の一部。
 「俺が生きるのも動くのも選ぶのも全てあの人のため。四六時中あの人のことを考えて生きてゆける。この身体も心も俺を成す一欠片余さずあの人のために存在すること。」
 主に魅せられた、若き竜。お前にとってその事実は酷く。
 「それが俺に許されたこと。」

  う ら や ま し い だ ろ う ?

 その言葉を言い終わる瞬間、雷を纏った刀が佐助の立つすぐ横の地面を抉り取る。
 怒気を孕み目を爛々と光らせた竜が今までの比ではない殺気を放っていた。
 「おしゃべりはここまでだ・・・テメェに費やす無駄な時間はねぇんだよ。とっととpartyを始めようじゃねぇか。」
 「・・・同感。幸運なことに此処で会えたんだから、邪魔なアンタは始末しちゃわないとね!」
 「Ha!こっちのセリフだ!楽には死なせてやらねぇぞ・・・!!」
 佐助が手裏剣を構える。戦場の中、雷と闇がぶつかりあい、派手に歪な音を奏でた。



 * * * * * *



 「・・・腕にぶったかな、俺様。」
 数刻後、深い森の中で血にまみれた佐助は一人呟いた。
 体のあちこちに深浅様々な刀傷。片足をひねってしまったし、あばらも恐らく何本かイってしまっている。
 暫くは仕事ができないくらいの傷を負ったというのに、結局竜を仕留めることは叶わなかった。
 「ま、同じくらいの傷は負わせたけどさあ。」
 それでもやっぱり、後悔は募る。―――此処で死んでほしかったのに。
 羨ましいかと、問いかけた。独眼竜に言ったことは一つも嘘偽りないし、佐助は自分の立場に心から満足している。あの人の忍びとして生き死ねるのならこの世に何の未練もないだろう。
 しかし心の片隅で、静かに叫ぶ声がある。

 ―――あの竜が、羨ましい、なんて。

 「絶対に言ってやんねー・・・。」
 目元を覆った手が震えるのが、酷く鬱陶しかった。










政宗VS佐助を書くのはものすごく楽しいです。
政宗選択して武田軍攻略した時の佐助の台詞にホント悶える。たまらん。






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