純愛讃歌



act 7. 十番隊隊首室



 「・・・つっ・・・かれた・・・。」
 誰もいない隊首室に着くや否や、一護は来客用のソファーに寝転がった。行儀が悪いとわかっていたが、疲労感は半端ではない。冬獅郎と二人だけという状況を言い訳にして、ぐったりと沈み込む。
 冬獅郎も特に一護の様子に頓着せず、先程の腕輪を興味深げに手元でいじっているだけだ。
 いろいろと遠回りはしたけれども、とりあえず山本の一言から始まった馬鹿げた騒動は終わった。一護は詰めていた息をゆっくりと吐き出す。
 それからうつ伏せの姿勢のまま、横目でじろりと冬獅郎を見た。
 「・・・んでもっと早く来なかったんだよ。」
 完全に八つ当たりだったが自分が追いかけられている間どこにいて何をしていたかくらいは聞きたかった。自分だけこんなに走り回っていたのは割りに合わない。
 冬獅郎は腕輪を机の腕に置くと一護の寝そべっているソファに腰かけ、オレンジ色の髪に指を絡める。真剣な瞳が一護をまっすぐに見つめていた。
 「・・・仕事に行ってた。」
 「・・・・・・。」
 「現世で手強い虚が出たと聞いて、帰ってきてから総隊長の伝令を聞いた。・・・悪かった。」
 一瞬にして感じていた怒りが去っていく。そろそろと身体を動かして一護は冬獅郎の腰に抱きついた。
 冬獅郎が謝ることなど何もない。彼はきちんと役目を全うし、その上一護を助けてくれたのだから。
 「悪ぃ・・・謝るのはこっちだ。怪我はねぇか?」
 「手強いって聞いた割にはあっけなかったからな。お前こそ大丈夫か。」
 「おう。助けてくれた人もいっぱいいたし。」
 「・・・そうか。」
 一護よりも少し小さい手が頭を撫でる。狛村と同じように安心できるそれに一護は身体を預けた。
 「・・・一つ、聞いてもいいか。」
 暫くして聞こえてきた冬獅郎の言葉に一護は無言をもって肯定の意を示す。
 すると顎を捕まれて強制的に視線を合わされた。
 ―――何だかその目が怒っているように見える。
 「と、冬獅郎?」
 「お前、何で今まで俺の隊に入ること渋ってやがったんだ?」
 「ぐ・・・!」
 聞かれるだろうとは思っていたが、今すぐとは予想していなかった。一護は目に見えて狼狽する。
 「こっちだって無理強いする気はねぇしお前の意思を尊重するつもりだったがほっといたらこの騒ぎだ。よほど俺の隊に入りたくなかったのかそれとも他に入りたい隊でもあったのか?とっとと吐きやがれ。」
 「ほ、他に入りたい隊があったんならここにいるわけねーだろが。」
 「だったらどうしてだ。」
 「・・・言わなきゃ駄目か?」
 瞬間細められた目の冷たさに一護は己の身の危険を察知した。やばい、冬獅郎は本気だ。普段温厚な彼は怒らせると非常に怖い。
 これで誤魔化そうとすれば容赦なく虐め抜かれるだろう。―――どんな方法で、なんて口にしたくもないが。
 仕方がない、と覚悟を決める。
 「―――怖かったんだよ!」
 「ああ?・・・別に誰もお前に喧嘩売ろうなんて奴はいねぇぞ。」
 喧嘩なら一護は恐れない。そうではない。そうではなくて。
 「お前のいる隊以外入りたくなかったけど、入ったら入ったで甘えちまうだろうが!俺はそういうの嫌だったんだよ!だから少なくともそういうことがないって言い切れるよう自信が持てるまで待ってたっていうのにあのジジイが・・・!!」
 言い終わるまでに抱きしめられついでに唇を塞がれた。
 一護は暫くじたばたしていたが抗えないと知ると力を抜く。体格だけを比較するなら一護の方が上だというのに、絶対冬獅郎に力で敵うことはなかった。
 それにもう先程までの騒動で疲れきって体力も残っていない。
 十分に堪能して、満足したのかようやく冬獅郎が顔を離した。
 「・・・要は公私混同したくなかったってことだな。」
 「・・・そーだよ。」
 「お前らしいけどな。でも俺から言わせてもらえば公私混同大いに結構、だ。」
 「はぁ?」
 ニヤリと一護の上で冬獅郎が笑った。―――いつの間にか体勢が変わり押し倒される格好になっている。
 「いいじゃねぇか。こちとら身体張って虚と戦って死ぬ気で事務仕事もやってんだ。ちょっとくらい特典がねぇとやってらんねーだろ。」
 「特典ってお前・・・。」
 「大体殆どの奴が公私混同・・・好みで所属の隊を決めてるようなものだぜ?雛森がいい例だ。」
 「そりゃそうかもしれねぇけど。」
 「じゃあ別にいいじゃねぇか。」
 いいのだろうか。いいのかもしれない。自信満々に断言されるとそう思えてくるから不思議だ。
 「それにお前は俺がいるからって仕事サボるような人間じゃねーよ。そういうところは信頼してる。―――お前が十番隊に来てくれてよかった。」
 嬉しそうに微笑まれて、一護はごちゃごちゃ考えるのをやめることにした。冬獅郎がそう言うのならそれでいい。
 第一もう一護が十番隊に所属することは決まったことなのだ。一護もそれが嬉しい。
 そっと一護は冬獅郎の背中に腕を回す。
 「あー・・・じゃあ、よろしくおねがいします、隊長?」
 「冬獅郎、だ。」
 「いつも雛森さんに言ってる台詞と逆・・・。」
 「当たり前だ。―――恋人だから、な。」
 そう言って冬獅郎は一護の一番好きな顔で笑った。











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