Color title...red 「Color title...」(リライト様) |
※高校生浦原×大学生一護 1、温かいお茶を一杯 「・・・手伝いましょーか?」 浦原は無意識に己の口から出た言葉に自分で驚いた。普段から必要以上に人とは関わらないというスタンスを取り続けている己が自ら他人に声を掛けることは初めてだったからだ。 それでも、目の前で両手一杯に分厚い本やらプリントやらを抱えて往生している姿を、何故か放ってはおけなかった。 「た、頼む・・・!腕が痺れそ・・・!!」 息も絶え絶えに呟く男の腕から半分以上の荷物を取り上げると、浦原はさっさとマンションのエレベーターに歩き出す。慌てて男がついてくる気配があった。 「え、そんな持たなくていいよ。少しでいいって。」 「いーですよ、別に。それよりボタン押してくれないと、この荷物運べない。」 「え、ああ。」 到着したエレベーターの操作ボタンをようやく重い荷物から開放された手で押す。4階。浦原が住む部屋と同じ階だ。 ほどなくしてドアが閉まり、独特の浮遊感を感じる。ついでに視線も感じて顔を上げれば、男が浦原を見て笑顔を浮かべていた。 鮮やかな橙色の髪には、見覚えがある。近所付き合いにはかなり消極的である自覚があるので詳しいことは知らないが、確か、近くの国立大学に通っているとか。しかも、医学生。 遠目から時々見るとはなしに見ていた。近くで見ればますます鮮やかな色だと思う。 「えーと、ありがとな!確かお前、俺と同じ階の高校生だったっけ?」 浦原が男に見覚えがあるように、男のほうも浦原の顔も知っていたらしい。まぁ自分は今学校からの帰りで制服を着ていたので、見ればすぐに高校生だということは知れるのだが。 「・・・浦原喜助ッス。この本は勉強用?確か医学部でしたよね?」 「あ、知ってんの?俺は黒崎一護な。一番の一に護るの護で一護。突然教授からレポート出されて山のように資料持って帰る羽目になったんだよ。マジ助かったわ。」 「ふーん、大学生も大変なんスね。」 もう半年も近所に住んでいながら今更お互いの名前を紹介しあっているうちに、エレベーターが4階に到着する。ドアが開くとさっさと下りて、浦原は一護の後を大人しくついていった。 一護の部屋は浦原の部屋から一部屋間に挟んだ端のほうだった。しかもその間の一部屋は先日空き部屋になったはずだから、実質的には「お隣さん」だ。 綺麗に整頓された部屋に本を運び入れてから、浦原はすぐに帰ろうとしたのだが、一護に呼び止められる。 「この後特に用がないなら茶でも一杯飲んでけよ。今のお礼に。」 基本的に浦原はこういう申し出は断る。放っておけなくて手は貸したが、仲良くなろうという気は基本的にないからだ。 けれど、いつもは不機嫌そうに顔を顰めている一護が意外に人懐っこく笑っていたりとか、自分の部屋と間取りは変わらないのに何となく居心地よく感じるこの部屋だとかが妙に気になって。 「・・・じゃ、お言葉に甘えて。」 浦原は、そう答えていた。 これが、二人の初めての出会い。 2、還る場所 浦原は自分の部屋を通り過ぎて奥の部屋まで行き、躊躇いなく玄関の扉をあけた。鍵はかかっていない。この日は朝の一コマしか授業がなく、昼には家にいることを既に本人から聞きだし済みである。 靴を脱いで制服のまま勢いよくベッドに寝転がった。 「あー・・・疲れた。」 「・・・てめ、人様のベッドでなにしてやがる。」 うつ伏せになったまま片目だけ開けると、このベッドの本当の持ち主である一護が仁王立ちして浦原を見下ろしていた。目つきの悪い一護が上から凄めばそれなりに迫力が出るが、浦原にはそんなもの効かない。 あっさり無視して、もぞもぞと布団にもぐり始めた。 「おい、こら!浦原!寝んな!!」 「いーじゃないスか・・・ようやくテスト最終日を乗り切った苦学生に憩いの場を提供してくれたって。」 「そのまま寝たら制服皺になんだろ!」 ―――そっちかよ。 浦原は心の中でそう突っ込んで、それでもベッドに寝ることは拒否されてないらしいことに笑顔を浮かべた。それから布団の中でどうにかブレザーを脱ぐと、布団の端からそれを落とす。 「う〜ら〜は〜ら〜?喧嘩売ってんのか、お前。」 制服は脱いだのに、お気に召さなかったらしい。仕方なく浦原はベッドから身体を起こした。 「一護さん、お腹すいた。」 「・・・お前な。」 がっくりと項垂れながら拳はプルプルと震えているが、浦原にその怒りを伝えるのは諦めたらしい。一護は素直に台所へと向かった。 一護の料理は美味い。浦原はやればできなくもないが自堕落なほうなどで大概外食かコンビニ弁当で済ませてしまうのだが、一護はきっちり三食作ろうとするタイプの人間だ。浦原の食生活を見て怒り狂った一護に初めてご飯を食べさせてもらった時のあの感動を何と言っていいものか。 今日も既に昼食を用意していていたらしい。部屋には食欲をそそるいい匂いが漂っている。 「一護さーん。今日たらこスパ?」 「当たり。もうちょっとだから待ってろ。」 「やった。アタシ一護さんの作るそれ、好き。」 「レトルトだっつーの。」 「それでも好きッスよ〜。」 「そらどーも。」 程無くして二人分のたらこスパを一護が運んできたので、浦原は立ち上がってお茶の準備をする。といっても、既に茶の用意はしてあったので、浦原がすることと言ったら湯飲みを用意するぐらいなのだが。 いただきます、ときちんと手を合わせてから、浦原は勢いよくスパゲティを口に運び始めた。 「んで、テストはどうだった?」 一護も同様にスパゲッティを食べながら浦原に聞いてくる。不安そうな顔をしているのは、恐らく浦原がテスト期間中一切勉強らしいことをしていなかったのを心配してるからだろう。 くすり、と浦原は笑った。 「ん〜。ま、いつも通りじゃないッスかねぇ?」 「いつも通りってどんなだよ・・・。後ろから数えて何番目だ?」 「一護さんってアタシのこと物凄い馬鹿だって思ってるでしょ・・・。」 まぁ一度も一護の目の前で勉強しなかったのだから仕方ないことと言えるのだが。 浦原は食事を中座して部屋の隅に転がっていた自分の鞄を取りに行った。中をごそごそとまさぐると目当てのものを取り出し、一護に手渡す。 一枚のプリントだ。 「?何、これ。」 「昨日・・・一昨日だったけ?言ってたでしょ。アタシの成績表が見てみたいって。それ、前回の中間テストの結果。オマケにウチの学校何でだか一年の頃からの成績も全部載せてくれてるんで、今までのアタシのテストの結果が余さずわかりますよ。」 「え?お前マジで持ってきたの?つーか、俺が見ちゃっていいのか?」 「別に困るもんじゃないし。」 そう、全然困るものではないのだ。 一護は興味深げにプリントの中身を一瞥して、固まった。心なしかぶるぶると手が震えているのを浦原は茶をすすりながら眺める。 「おまっ・・・これ、全部一位じゃねーか!」 プリントに並ぶ「1」の字は我ながら圧巻である、と思う。一護も感動(?)してくれたらしい。 「うわ、点数も殆ど満点・・・!?何コイツ!超嫌な奴!」 「頑張ってるのにそりゃないでしょ・・・。」 「どこが頑張ってるんだよ!?一回も勉強してなかった癖して!!」 「直前に教科書読めば全部答えが載ってるじゃないですか?」 「うーわー!一番やなタイプだなお前!!」 自慢ではないが浦原は短期間での暗記は得意である。数学など暗記だけではどうにもならない教科もあるが、それも教科書の応用。難しいことではない(と本人は思っている)。 食べ終わった皿を片付けて、浦原はまだ成績表を見ながら何事か呟いている一護を尻目にベッドへもぐりこんだ。それにようやく気付いて一護がまた声を張り上げる。 「あ!だから制服脱げって!おまけに食った後すぐ寝るんじゃねぇ!」 「んー、眠い・・・。一時間だけでいいから。」 お願い、と布団から頭半分だけ出して頼み込んで見れば、諦めたように一護が溜息をつく。それを了承と取って浦原は本格的に眠ろうと楽な体勢を取った。 「お前なー・・・疲れてんなら、すぐに自分の家に帰って寝ればよかったんじゃねーか?」 ゆるゆると眠りの世界へ落ちていく頭でも一護の言葉は尤もだと思う。 けれども。 「・・・なーんか、こっちのほうが。」 帰って来たって気がするんスよ。 一護にはその言葉まで伝えられたかどうか。おぼろげな記憶のまま、浦原は逆らうことなく眠りの世界へと落ちていった。 3、春雷 雨の音を聞きながら、浦原はプリントにペンを走らせている。 新しい学年になってすぐ配られた進路調査票だ。第一希望から第三希望まで欄があり、その全てを淀みなく埋めていく。 空からはごろごろと微かな音が聞こえている。雷が、近づいているらしい。 最後の欄までしっかり埋めて、浦原はその場に寝転がった。 「おい、肝心の名前忘れてるぞ。」 同じ部屋の中、パソコンに向かい合っていた隣人はこちらのことを全く気にしていないと思っていたのだが、見ることは見ていたようだ。指摘され、のろのろと半身を上げる。 「ありゃ、本当だ。」 「しっかりしろよ。で、お前どこ志望してんの?」 窓の外で、空が光る。 「んー?一護さんと同じとこ。学部は医学部か薬学部で迷ってますけど。」 「お前狙おうと思えば上の大学狙えるのに何でまた・・・。」 「引越しとか面倒。一護さんの大学も十分ランク高めだし。」 「そーだけどよー・・・。」 ごろごろと少しずつ雷の音が大きくなる。また、光。 一護はまだ納得がいかないらしい。勿論一護の言うとおり上の大学を狙える実力は十分に持っているし教師たちもそれを期待しているのだろう。 しかし浦原にとってどうしても譲れないことが他にある。 「・・・だって、一護さんがいるのはその大学しかないでしょ?」 小声で呟いた言葉は、丁度いいタイミングで鳴った雷の音に消された。 「何か言ったか?」 「何でもないッスよ。」 それをいいことに浦原は誤魔化す。別に今伝えたかったわけではない。聞こえなければそれでいいのだ。 空に響く雷の音は未だ鳴り止みそうになかった。 4、深い深い湖(みず)の底 ああ、夢だな、と思った。 浦原の身体は水の中に沈んでいる。周りには水草がびっしりと生えていて水が緑色に染まっているように見えた。草が肌を撫でる感覚だけがやけにリアルで、それでも息苦しさを感じないから夢だと判じる。 仰向けに寝転ぶ浦原の視線の先には光を反射してキラキラと輝く水面。あまりにそれは遠くてぼんやりとしか見えなかったが、水面には人影が見えた。 (一護さん。) 水面に映る、橙。どういう表情なのかは見えなくても、橙は彼を象徴する色だ。 触れたくて、近づきたくて、手を伸ばす。けれども水の底に沈む浦原の身体は一護には全く届かない。それが自分の心情を如実に表していて浦原は薄く笑った。 綺麗な綺麗な、強い人。浦原が恋焦がれてたまらない人だ。現実では近くに居て毎日一緒に過ごしているが、浦原には一護との距離が埋まらないように感じていた。 ただでさえ一護は浦原より3歳も年上だ。大学生と高校生では生活のサイクルも経験も変わる。一護から知らない話題が出るたびに、浦原はもどかしいような感覚を味わう。 勿論外に出したことはなかったが、自分が一護より年下だということに浦原はかなりコンプレックスを感じていた。 浦原にとって、一護は何もかもが眩しい。強い精神力も優しい性質も凛とした姿勢も何もかも。全て浦原にはないもので、それがますます浦原を焦らせるのだ。 水底に沈む浦原と、水面に映る一護。その距離は果てしなく、遠い。 (貴方が。) 夢の中で、願う。現実で叶わないのならいっそ、己の夢で願うくらい許されるだろうと。 (貴方が、この水底まで落ちてきてくれればいいのに。) 気のせいか、誰かが飛び込んでくるような水音を聞いたような気がした。 5、芽吹いた想いは 一護はパソコンの電源を落として、椅子から立ち上がった。 レポートを書くために3時間ほど座っていたから、随分肩が凝っている。両手を組んで上へと伸ばしゆっくり筋肉をほぐした。 視線を移せば、床に寝転がっている男が一人。いつの間にか眠ってしまったらしい。春になったとは言えまだ気温は低いから流石にそのまま眠っていれば風邪を引く。一護はベッドから薄い毛布を持ってくると浦原の身体にそっと被せた。 眠っている浦原の顔はまだ幼い。目を開けて話していればどうにも高校生らしからぬ大人びたところが目に付くから忘れがちなのだが、一護と浦原には3歳の差があるのだ。そんなことを改めて思い出した。 『・・・だって、一護さんがいるのはその大学しかないでしょ?』 そんな彼から飛び出した、先ほどの言葉は何だったのだろう。 雷の音で聞こえにくくなっていたが、一護の耳には浦原の言葉が届いていた。ただあまりにも意外な言葉だったから思わず聞き返したのだ。浦原は誤魔化してしまったけれども。 まるで、自分と離れたくないと、そう言っているように、聞こえた。 「・・・まさか、なぁ?」 馬鹿げた想像に、一人苦笑する。そう考えてしまうのは、自分も少なからず同じようなことを考えていたからだろう。 出会ってから、約半年。年齢差を意識せず仲良くなった浦原と別れるのは惜しかった。これで結構人見知りの激しい一護は浦原程誰かとここまで親しくなれた記憶がない。 浦原が同じ大学に進んで、このまま傍にいれるのなら、嬉しい。 けれども、傍に居続ければ現在自分の中にある浦原への感情が友情に収まりきらなくなるであろうことを一護は予感していた。 否、予感している時点で認めたも同然なのかもしれない。 傍に居たいと思うくらい離れて欲しいと同時に願う。この男が齎す落ち着いた空気が居心地が良くて、大事にしたいから。 だから。 「あんまり調子に乗らせんなよー・・・。」 呟いた言葉はきっと眠っている浦原には届かないだろうけれど。 |
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