貴方への想いは日々募りやがて溢れて零れだすのでしょう |
※高校生浦原×大学生一護「Color title...green」続編 12月31日。 所謂大晦日と呼ばれるこの日は浦原の誕生日でもあった。 とは言ってもあまり浦原は誕生日を特別な日だとは認識していない。本来ならば今年もあっさりと一年最後の日であり己の生まれた日でもあるこの日を格別意識することもなく恙無く終える筈であった。 しかし今回、一人の男の存在によって浦原はその”通例”を喜んで翻した。 その男の名は黒崎一護。1歳年上の大学生でアパートの隣室に住み、そして浦原が最も好きな人である。 勿論恋愛感情で、だ。男同士というリスクには少々躊躇いがあったが―――それは一護が同性だということを気にせず自分の想いを受け入れてくれるだろうかという種類の躊躇いであり、浦原自身に一護を好きになったことへの戸惑いはない。それほどまで心から一護に惚れた。 その想い人が、冬休みに入るとすぐに実家の方に帰っていたにも関わらず、この日浦原のためだけに帰ってきてくれたのである。 喜ばないはずがなかった。 簡単な手料理と、一護が買ってきたコンビニのショートケーキ。そして二人とも一応未成年だが今日は無礼講ということでビールを一缶ずつ。 食卓に並べたそれらをつつきながら、一護に短く祝いの言葉を述べられ近況を語り合う。ささやかだが浦原はこれほど満足する誕生日を経験したことなど終ぞなかった。 「そういえば―――。」 粗方料理を片付け、残ったビールだけをちびちび飲みながら一護がふと顔を上げる。 「お前、誕生日プレゼント何がいい?」 忙しくて買う暇がなかったんだ。ごめんな。一護は言った。 浦原驚いて彼を見返す。 プレゼントは彼が今日来てくれたことと、手料理と、ケーキだと思っていたのだ。事実浦原は十分幸せだった。 そのことを素直に告げると、一護は照れくさそうに笑う。 「誕生日を祝うことは当たり前のことだろ。それとプレゼントは別。」 「はぁ・・・そんなもんッスか。」 「そんなもんそんなもん。」 さぁとっとと言え、とばかりに一護は浦原が一体何を求めるのか、期待に目を輝かせている。 とりあえずプレゼントをくれるというならば遠慮はしないつもりだが。 「欲しいものって言われても、ねぇ・・・。」 思い当たらない。 浦原は基本的に物欲の少ない人間だ。こだわりや執着心などといったものが薄い。 唯一欲しいという欲求が向いているもの、否、人ならば目の前にいるが―――それは貰うもの、ではなく、自ら手に入れるもの、だ。 「・・・我侭ならいっぱいあるんスけど。」 「我侭ぁ?」 「そ、我侭。」 一護は当てが外れたような顔をしたが、次の瞬間笑顔に変わる。どうやらそれも面白そうだと思ったらしい。不敵な笑みだった。 「いいぜ。言ってみろよ。」 「聞いてくれるんスか?」 「聞けるものならな。あんまり突拍子のないものだったら、殴る。」 そう言うとテーブルを挟んで向かい合わせに座っていた一護は本当に座ったままずりずりと浦原の横まで移動してきた。馬鹿なこと言ったが最後、横から強烈なツッコミを入れる気らしい。 かつて空手を習っていたという一護のツッコミは脅威だが、一護をより近くに感じられるのは単純に嬉しかった。 「そうですねぇ・・・。」 顎を撫でて思案する浦原の横顔を一護はじっと見つめている。イヤン、照れちゃう。そう茶化すことでドキドキする心を誤魔化しつつ浦原は思いついたことをあっさりと口にした。 「じゃあ・・・もうすぐセンター試験あるんで、その日にカツ丼作ってください。」 ニッコリと笑って告げられた浦原の言葉が余程意外だったのか、一護はぽかんと口を開けた。 目を何度か瞬かせて、暫く考えた後、開いていた口をゆっくりと閉じ、今度は驚きを表すためではなく話すためにまた口を開く。 「・・・朝っぱらからカツ丼って、逆に体調悪くしねぇ?」 「んー、若干重いですけど大丈夫です。若いから。」 「つーかお前そんなベタな験かつぎしなくても合格間違いなしだろが。」 「何言ってるんですか。その日何が起こるかわからないんですからね。それにこういうのは気持ちが大事なんです。」 「うっわ、お前が普通の人っぽいこと言うと気持ち悪ぃ・・・。」 口にした内容は非常に問い質したいものではあったが、それよりも浦原は一護が浮かべた笑顔に見惚れた。 少々アルコールが入っているからか、それとも浦原の誕生日だからなのか、浮かべたのはただひたすらに優しい穏やかな笑みだったのである。 「まぁいいや。作ってやるよ。それで?他の”我侭”は?」 どうやら徹底的に甘やかしてくれる気らしい。 それから浦原は俄然張り切って”我侭”を言い列ねた。それはどれも些細なものばかりで―――例えば日付が変わったら一緒に初詣に行こう、だとか、冬休み中にドライブに連れて行って欲しい、だとか―――二人とも内容云々というよりも、そうやって馬鹿げたことを言い合うということを楽しんでいる節があった。 実際、何でも良かったのだ。一護と何かこれからのことを約束できるのなら。 ただあんまりにも一護が優しく浦原のたくさんの我侭を許容してくれるから、そしてやはり浦原も少しアルコールに酔っていたのか。何にせよ、その言葉はごく自然に、そしていくらか唐突に浦原の口から零れ出た。 「それと―――キスして。」 空気が止まるというのはこういうときを言うのだろうと思うくらい、二人の言葉も動きも止まる。 ああやっちゃった。そう思いながら浦原は不思議に静かな気持ちで一護の反応を見ていた。殴られるかもしれない。だがそれもいい。どうせ言ってしまった言葉を取り返すことなどできやしないのだ。 また一護も―――浦原が見る限りではこれといって目立った反応はなかった。聞こえていたのだろうか、と心配してしまうくらいただじっと浦原の顔を見つめている。 そうやって見詰め合っていたのはどれほどの時間だったのか。恐らくそう長くはなかったのだろう。動いたのは一護が早かった。腕が浦原の方に伸びてくる。 ようやく殴る気になったのかと思ったが、それは酷く緩慢な動作だった。そんな勢いで殴っても多分浦原は痛みを感じないだろう。 一体何を。浦原のその疑問に一護は行動でもって示した。 少し体温の高い掌が耳の後ろから首筋辺りを包み、そのまま軽く引っ張られて浦原の身体が前に傾ぐ。そのまま片膝を立てた一護の顔が近付き―――。 ほんの一瞬。瞬きをするよりも短い時間だったが、何をされたかは明白だった。 「―――他には?」 至近距離で一護に問われた言葉が、先程までの”我侭”のことだと思い至るまでにかなりの時間を要し、理解したところで浦原は何も言わなかった。驚きと喜びと羞恥とその他いろいろな感情で顔が真っ赤に茹で上がり、言葉が出てこなかったのだ。 それでも辛うじて残っている理性を掻き集めて一護を見れば、浦原につられたのか目の前の顔も真っ赤だった。 不意に浦原はぱったりと後ろに倒れる。驚いた一護が見つめる中、浦原は顔を両手で覆って長い溜息を吐いた。 「だ、大丈夫か浦原。」 「・・・や〜も〜・・・大丈夫じゃないッス。」 顔が熱い。頭が焼ききれて真っ白になるようなあんな感覚は初めてのことだった。キス一つのことで。 それほど目の前の人のことが好きなのだと思い知らされる。おかげで未だ封じ込めておくつもりだった言葉は先程のキスに触発されてするりと浦原の口から紡がれた。 「ああ、もう。一護さん好き。大好き。」 「あっそ。」 何て陳腐な告白。それでも一護は笑うことなく、ただ素っ気無く相槌を打つ。 「・・・俺もだ。」 次いでこっそり呟かれた言葉に浦原は満ち足りた想いで微笑んだ。 間違いなく、今年の誕生日は一生忘れられない日になるだろう。そんな幸せな予感と共に。 |
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