POWER
「カップリングパロディー"幼馴染"」(リライト様)



 この世界では力が全てであり弱いものから順に消えていくのだと幼い頃から体験的に学習してきた。
 現世での死と共に与えられた新しい世界はどこまでも残酷で厳しい。なまじ霊圧がある分生きていくには不便だった。死んでも腹が減るのは鬱陶しいものだと何度思ったことだろう。
 恋次は流魂街で、自分と同じ境遇の子どもたちだけの集団を作り暮らしていたが、力を合わせてもやっぱり死ぬ奴は死んでいった。
 時には餓えて。
 時には殺されて。
 そのたびに感じるのは無力感。集団のリーダー的役割を担っていた恋次には人一倍それが強かった。
 そのままでいれば恋次も早々に二度目の生を諦めていたかもしれない。しかし同じく中心的な存在だった一護がそんなときに何も言わずただ同じだけの悲しみを抱えたままそっと傍にいてくれたから恋次は前を向いていられたのだと思う。
 このまま失い続けることだけは絶対に嫌で、死神になろうと決意したのは十人近くいた仲間が恋次と一護とルキアのたった三人になったとき。
 生きるために、何も持たずただお互いの手をとって新しい道へと踏み出した。



 * * *



 「っだー!寒ぃ!ありえねぇ!」
 「だからっ!上着着ろって言っただろーが!!」
 「知らねぇ!寒ぃ!風強ぇー!!」
 真央霊術院の敷地内にある丘の上で、一護と恋次は震えながら沈みゆく太陽を見守っていた。高い丘の上から見える景色は障害になるものが何もない分、風の勢いもすさまじい。容赦なく叩きつける風は冷たいというよりも寧ろ痛いという表現がふさわしく、びゅうびゅうと鼓膜を震わす音に負けまいと、自然二人とも怒鳴るような話し方になる。
 しかし、そんな不便を押してでも、ここにくる理由があった。
 この丘は流魂街の様子を遠目に見ることができる唯一の場所だ。まだ幼かった一護と恋次が出会い、共に暮らした場所。―――そして、かつての仲間たちの墓がある場所。
 あまりに遠すぎて、ぼんやりとした外観しか見えやしない。それでもあの頃のことを忘れないように、時にはルキアも交えてここを訪れるようにしている。
 元気だと、頑張ってるからと伝えたくて、もしくはくじけそうになったときに元気を分けてもらいに二人は寮をこっそり抜け出してこの丘に立つのだ。
 しかし如何せん、今日は風が強すぎる。おまけに寒い。二人ともずびずびと赤い鼻を啜りながら、必死に目を開けていなくてはならなかった。
 「つーか、俺らこのまま風邪ひくんじゃねーか!?」
 「有り得る!!ぜってーひく!!」
 上着も持たず薄い着物だけで冷たい風に長時間晒されていれば、幾ら丈夫な二人でも風邪をひくだろう。そうなれば理由を追求されて、こうして二人抜け出していることがばれてしまうかもしれない。
 「冗っ談じゃねぇっ!とっとと帰るぞ一護!」
 「もーちょい待て!!」
 待てるか!そう文句を言おうとした恋次は自分よりも少し前方に立つ一護の姿を見て言葉をつぐんだ。
 学院の制服である白い着物の袖が強風に煽られバタバタと波打つ。口を真一文字に結び目を凝らして夕陽を見つめる顔はどこまでも真摯で、しっかり両足を踏みしめてすらりと立つ姿は美しかった。
 オレンジの髪の色も、早々に始解を果たしてしまった馬鹿でかい斬魄刀も、彼にしか持ち得ないものでそれが鮮やかな存在感に拍車をかけている。
 ああ、と。知らず溜息がもれるのはこんなときだ。
 見惚れると同時に感じるのは、誇らしさ。この幼馴染と共にいる限り、自分はどんな困難にあったとしても何度でも立ち上がることができるだろう。幼い頃からそうであったように。
 何だか無意味に笑い出したいくらい嬉しくなって、恋次は目の前にある一護の腕を引っ張った。真正面から吹いてくる風も味方して、一護の身体は簡単に恋次の腕の中に倒れこんでくる。
 「のわっ!危ねぇだろ!!」
 文句ごと、力いっぱい抱きしめてやった。冷たい外気に晒されていた互いの身体は冷たかったが、触れ合った場所から体温が混ざり合いながら溶け、次第に温まっていくようだ。
 流魂街でも、死神になるための学院に通う今でも、弱いものから死んでいくには変わりがない。世界は相変わらず残酷で、それでも恋次は一護が傍にいるというただそれだけで、途方もなく幸福になれた。
 「一護!」
 「んだよ!」
 「強くなろーぜ!!」
 突然何を言い出すのかと思ったのだろう。空白があって、それでも「当たり前だろーが!」と怒鳴り声が返ってきたから、恋次は今度こそ声をあげて笑った。



 生きるために死神になろうと決めた。
 今は傍にあるために強くなりたいと思う。






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