愛を乞う人





 卒業を間近に控えた真央霊術学院の最上級生は、もう授業も殆どないということもあって些か浮足立っている気配がある。厳しい訓練や学業に身を費やした甲斐あって、もうすぐ正規の死神になれるのだから無理もないだろう。教師も口うるさく注意するようなことはせず、気ままな学生気分をぎりぎりまで味あわせてくれるつもりでいるようだった。
 そんな中、二人の生徒は酷く落ち着いた、見ようによってはそんな騒ぎに辟易としているような素振りを見せて、教室の片隅にゆったりと腰かけていた。
 「…折角毛嫌いしてた学校から卒業できるっていうのに、アンタは周りと違って嬉しそうじゃないわね。」
 綺麗に手入された指先で、輝く金の髪を弄びながら、松本乱菊は隣に立つ男に声をかける。まるで学生らしくないずばぬけたスタイルを持つ彼女に周囲の男子学生はおろか教師までもが熱の籠った視線が集まっているが、本人は意に介しない。そんな松本から声をかけられた男―――市丸ギンは、鬱陶しそうに鼻を鳴らした。
 「せやから別に死神になんかなりたないて言うてるやろ。」
「アンタ、そのセリフ聞かれたら死に物狂いで死神になった奴らに殺されるわよ。」
 「あんな奴らに殺されるなんてヘマするわけないやん。」
 市丸は今期の卒業生の中でも上位の成績を修めており、既に十三番隊への入隊が決まっている。しかし誰もが羨むその立場さえ「めんどい、いらん。」と切り捨てるような性格だから、教師も相当扱いに困っていたようだ。この男が卒業して喜ぶのは本人ではなく寧ろ教師たちの方だろうと、松本はゆるやかに微笑んだ。
 市丸がこうして嫌々ながらも学院に通い努力したのは死神になるためではなく、他に目的があるからだと松本は知っている。話の中でしか知らないが、何物にも執着しなさそうな男が唯一心を動かされる存在―――。
 「…会いに行くの?」
 問えば、当然とばかりに大きく市丸は頷いた。
 「居るかわからんけど、会える可能性があるなら行くわ。」
 「ホンット、ぞっこんよね。アンタに憧れてる趣味の悪い女の子たちにその姿見せてやりたいわ。」
 「何やそれ。僕は一護ちゃんしかいらへんもん。」
 とっとと学校なんかおさらばして早く会いに行きたいと子供のように口を尖らせる市丸の姿に松本は苦笑する。
 果たしてこの男にそこまで言わせる“イチゴちゃん”とやらはどんな人物なのだろうと思いながら、「精々頑張りなさいよ」と同士としてエールを送った。












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