Fall in love at first sight.





 隊首会はかつてない緊張と興奮に包まれていた。
 護廷の中で黒崎一護という名を知らない死神はいない。姿を見たことのないものが殆どだが、その名前だけは最強の死神としてありとあらゆる場所に伝説が残っているのだ。死神の中の死神、いわば英雄として祀り上げられている。
 その昔話の中だけの偉人と思っていたその黒崎一護が、特別に副隊長まで集められた今回の隊首会に参加しているのである。
 いつも以上に機嫌のいい山本総隊長曰く、一護は昔一身上の都合で死神をやめてしまったとのこと。その実力や人気は上層部からも惜しまれたが本人は至ってあっけらかんと護廷を去ってしまったらしい。しかしこの度山本が口説きに口説いて護廷への復活を了承させたというのだ。
 初めて目にした一護は―――外見だけのことを言えばまだ幼い少年だった。最強と謳われるからには余程屈強な男かと思っていたのだが、腕も細く、身体全体が未発達な印象を受ける。しかし背に負った馬鹿でかい斬魄刀と押さえながらも圧倒的な霊圧の量がその見た目を裏切っており、また目に浮かぶ光も長い間を生きた者のそれだ。
 オレンジ色の髪の毛は一目見たら忘れられそうにないし、不機嫌そうに寄せられた眉と鋭い視線は攻撃的な印象を受けるが、少し垂れ気味の眦は愛嬌があって、笑えば驚くほど幼く可愛らしい顔になった。
 「死神やってたって言ってもかなり昔の話だからな。いろいろわからないことがいっぱいで迷惑かけると思うがよろしく頼む。」
 そう乞われて否と応える者はいない。各々、黒崎一護の噂を眉唾物だと哂っていた者でさえ興奮した面持ちで―――些か邪な想いを抱きつつ―――了承の意を唱えた。
 いつになく素直そうな隊長・副隊長たちの様子に山本は呵呵と笑う。
 「随分緊張しておるのう。」
 「そこがわけわかんねー。一体俺がいなくなった後何がそんなに噂になってたんだ?」
 重國と一緒に破壊の限りを尽くして結果的に四十六室に喧嘩売ったことになって危うく秘密裏に処刑されそうになったことか?あのときのお偉方の顔は見ものじゃったお互い若かったし無茶したよなーあははははは。
 何やら山本と一護の間で不穏な会話が交わされているが伝説の男を目の前にした死神の耳には届いていない。寧ろそれすらも新たな武勇伝の一つとして片付けられそうになっている。
 ふと、一護は畏まっている死神たちに視線を向けた。
 「えーと、そこの隊長さん?できればそれ取ってくんねぇ?」
 一護に声を掛けられたのは笠で顔を隠している七番隊隊長の狛村だ。本人は動じなかったが後ろに控えている副隊長の射場は僅かに動揺を見せる。
 「顔が見えねぇっていうの何か落ち着かないんだよ。嫌なら無理強いはしねぇけど。」
 「否、狛村もそろそろ笠を取るべきじゃ。隠す必要はないと儂は昔から言ってるのじゃが・・・頑固な奴での。」
 「何だ?重國と親しいのか?」
 「は・・・元柳斎殿に拾っていただいたお陰で今ここにおります。」
 「へ〜。」
 一護はしなやかな動作で移動し狛村の前に立つ。相当な身長差のある二人なので自然一護が見上げるような形になった。
 「嫌か?取るの。」
 ことん、と首を傾げてそう聞いた一護の姿は、わかってやっているのかそうでないのか、とにかく妙に愛らしい。射場は声に出さないが一体どうするのかと狛村を心配している。
 暫く無言の応酬が続いたが、狛村は静かに己の顔を覆う笠に手をかけた。
 あまり表には出していなかったが狛村にも黒崎一護に憧れる気持ちはある。山本から直接その話を聞いていただけあって他の者よりその気持ちは強いかもしれない。その人がこうして望んでいるのならそれに応えるまでだ。
 全員が固唾を呑んで見守る中、僅かな同僚だけが見たことのある獣の顔が露になる。狛村は取った笠を射場に預けると、自分より頭二つ分は小さいであろう一護の目をひたと見据えた。
 「・・・ご満足召されたか。」
 一護は目を大きく見開いて驚きに声も出せない様子だ。やはりこの顔を晒すのは早まったかと狛村が後悔しかけた瞬間。
 鮮やかに一護の顔が朱に染まった。
 リトマス紙のような突然の変化に今度は狛村が驚く。一体どうしたのかと不安になって伸ばした手を一護の両手ががしりと掴んだ。
 「・・・っ、モロ好み・・・!!」
    は い ?
 その場にいる隊長・副隊長の意識が一つになったことを余所に、一護は物凄い勢いで山本を振り返る。
 「重國ィ!おまっ・・・何でこんな素敵な奴見つけたなら真っ先に俺に教えねぇんだよ!!」
 「・・・そんなことで責められても、お主の好みなんて一番難解なもの儂が把握しとるわけがなかろう。」
 「うわぁ!馬鹿!何年来の付き合いだよ!馬鹿!薄情者!」
 あまりの暴言の数々にぴきりと血管を浮き上がらせた山本を放って、一護は再び狛村へと視線を戻した。
 なめらかな頬は相変わらず赤く染まり、目はキラキラと輝いている。
 「狛村、狛村っつったよな。下の名前は?」
 「は・・・左陣と申します。」
 「左陣かー。いい名前だな!」
 嬉しそうに笑いながら、一護は両手で掴んだ狛村の手を上下に揺らした。狛村は呆気に取られて全く反応ができていない。周囲もまた然り。
 「すっげぇ楽しくなってきた!これからよろしくな!」


 どうやら伝説の男・黒崎一護はかなりマイペースな人間らしい。
 好みのタイプは七番隊狛村隊長という事実と共に、その情報は死神たちの心に強く焼き付けられた。










200000HITのリクエスト企画の一つでした。
積極的・・・というか女子高生のようにはしゃぐ一護さんは書いててすごく違和感でした(笑)。




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