純愛讃歌



act 1. 一番隊隊首室



 ―――カチリ。
 突然右腕に感じた違和感と硬質な音。つられるように視線をずらすと、いつの間にかエメラルド色の細い腕輪が嵌められていた。
 「・・・は?」
 目の前の高さまでそれを持ち上げてしげしげと見つめる。装飾も何もないシンプルなものだ。けれども純度の高い輝きを見ていれば安いものではないと一目でわかる。継ぎ目などないのにまるで誂えたようにぴったりと一護の腕に嵌っていた。
 そこまで観察して、この腕輪を用意したらしい山本に視線を移す。
 「・・・んだよ、これ。」
 茶に誘われて、ついて来て、世間話をしている途中請われるがままに傍に寄ったらこの始末だ。些か自分も気を抜きすぎていたのかもしれないが、騙し打ちのようにわけのわからぬものを付けられては気分が悪い。あまりにも不躾なのではないだろうかと思わず声にも険がこもる。
 山本は落ち着き払って一口茶を啜っていた。
 「おい、山本のじーさん。わざとらしくとぼけてないでよりによって男の俺にこんなもん嵌めやがった理由を今すぐ説明しやがれ。」
 「ぺい!相変わらず口の悪い奴じゃ!」
 挑発するような言葉を吐けば、案の定山本はすぐに反応を返す。にやりと笑った一護の様子を感じ取ったのか、場を仕切るように白々しい空咳が響いた。
 「まぁ今はよかろう。・・・それは技術開発局の連中に作らせた特別製の腕輪じゃ。」
 「特別製・・・?」
 「お主以外の誰かではないと外せないようにプログラムされておる。つまりお主にはどう足掻いたところでそれは外せんぞ。」
 「はぁ?何でそんな厄介なもんわざわざ作らせて俺にはめなきゃなんねーんだよ?」
 「何で・・・と言うたな?」
 常に細められた目が開かれ、その眼光の鋭さに一護は身を竦める。怒っていたのは一護のほうだったはずなのに、何故だか立場が一瞬にして逆転していた。
 「もしやとは思うが、お主は儂が毎度毎度言っていたことを忘れたわけではなかろうな・・・?」
 「い、い、言ってたことって・・・?」
 「いい加減、所属する隊を決めろとあれほど口を酸っぱくして言うたはずじゃ!」
 確かにそれこそ何ヶ月も前から、形だけでもどこかの隊に所属しろと山本に言われていたことは覚えている。その方が書類処理や伝達など諸々のことが便利になるから、と。しかしあまり瀞霊廷の仕組みにも詳しくないし、自分ひとりくらいふらふらしていても構うことはないだろうと勝手に保留にしていたのだ。
 が、逃げ回っていたツケは今になってまとめて返って来たらしい。一護は恐る恐る山本を見上げた。
 「・・・俺どこも入りたくないんだけど。」
 「ぺい!もうそれが許される立場ではないのじゃぞ!?人間兼俄か死神と言うてもお主の実力は隊長クラス!短期間で卍解まで取得して本来ならば一つの隊を丸々任せてもよいくらいじゃ!それにお主がどこにも属さぬと駄々をこねても、他の隊長たちが早く自分の隊のお主を引き取らせろと毎日毎日せっついてきよって、この老いぼれの身体はもうずたぼろじゃ!」
 「んな繊細な神経持ち合わせてねーくせに・・・。」
 ―――ゴイン。
 うっかり本音を零してしまった一護の脳天に山本の杖が勢いよく振り下ろされる。
 「〜〜〜〜〜〜ッ!」
 容赦のない一撃に一護は涙を浮かべて傷口を押さえているが、自業自得と山本は涼しい顔をしていた。
 本当に腹に据えかねているらしい。
 「そこで、じゃ。お主が決めぬなら実力行使させてもらうことにした。」
 「・・・あぁ?」
 「『黒崎一護を自隊に入隊させたければ力づくでも何でも構わぬから右手首に嵌められている腕輪を奪え。』―――今頃全ての隊に伝令が行き渡った頃じゃろうな。」
 「はぁ!?なっ・・・ちょっ・・・!?」
 遠くから、地響きが聞こえる。まるで、大人数の走ってくる足音のような。
 気のせいだと信じたいが、今の話を聞いていると希望的観測を信じた方が痛い目を見ることになるような気がする。
 もう既にいつでも逃げられるように一護の腰は半ば浮いていた。
 「それって拒否権は・・・。」
 一縷の望みをかけて山本に問う。が、一笑に付された。
 「あるわけなかろう。・・・が、お主が今すぐここで儂に腕輪を取らせれば自動的に一番隊入隊が決まりあいつらに追いかけられることはなくなるがの。儂はそれでも構わぬぞ一護。」
 「・・・っのクソじじい〜〜〜!!!」
 一護が叫ぶと同時に、一番隊のドアが蹴破られる。
 殺気だった人だかりがそこにはあった。全員黒い死覇装を身に付けているから、黒い小山のように見えてなおさら迫力がある。
 「一護!」
 「是非ウチの隊に!」
 「いや!俺のところに来い!」
 「黒崎さんはウチが引き取ります!」
 口々に入隊を望む言葉が聞こえてくるが、こんなに人がいれば誰が誰だかわからない。しかもそれに応える気は全くなかった。
 「・・・誰が行くかぁ〜!!」
 山本の楽しそうな笑い声を背に、一護は慌ててその場から逃げ去った。



act 2. 三番隊詰め所付近裏庭へ続く







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