純愛讃歌



act 6. 十番隊詰め所前



 狛村に見送られ七番隊を元気に飛び出してきたまではよかったが、隊長二人と副隊長二人の霊圧の渦に間違いなくそこに一護がいることを悟った死神たちが集まり、多くの死神たちが、そして途中で一悶着あった隊長や副隊長までもが逃げる一護を追いかけていた。
 「だーっ、もう!」
 あともう少し。もう少しでこの騒動は終わるはずなのだ。それなのに追っ手が邪魔でなかなか素直に目的地まで辿り着くことができない。。
 「くっそ、勘弁しろよ・・・!」
 数も多いし、しぶとい。息切れするほど走っているがどこまでもついてくる。果てのない鬼ごっこに一護は泣きそうになった。
 ―――そもそも、自分はこんなにも苦労しているというのになぜ「アイツ」は出てこないのか。
 騒動に参加しているようでもない。逃げ回っている間一度として姿を見ることはなかった。きっと伝令は行き渡っているだろうに。
 この状況を引き起こしたのは一護自身の責任だが、それでもあまりに冷たいのではないのか。内心こっそり文句を連ねる。
 ―――それとももしかして、自分のことを入隊させたくないのかもしれない。
 自分で考えて、自分でショックを受けた。もしそうならこうして逃げ回っていることも全て無駄だ。必死に動かしている足が止まりそうになる。
 「―――っもらったぁ!」
 思考に没頭していた一護の肩を誰のものとも知れぬ腕が掴んだ。しまったと思ってももう遅い。ここまで接近されていたことに気付かなかったのだから。
 突然スピードを殺されてガクンと身体が揺れる。しかし次の瞬間掴まれていた腕は外れ、ひやりとした外気が一護の頬を撫ぜた。
 「・・・・・・?」
 何だ、と思って周りを見渡す。
 「・・・あ?」
 鮮やかに澄みきった氷の壁が一護を守るように四方に張り巡らせていた。
 他の死神たちが氷の壁の向こうで騒いでいる。が、一護はそれどころではない。走った上に、驚きと、それから期待で胸が騒いで仕方がなかった。
 こんな風に氷を自在に操ることができるのは護廷広しと言えどもただ一人だけだ。―――一護が今会いに行こうとしていた人。
 「・・・何とか間に合ったか。」
 「冬獅郎・・・。」
 斬魄刀を片手に持った彼がそこにはいた。氷の壁のこちら側。これで一護と冬獅郎の二人っきりだ。
 「・・・おい、手ぇ出せ。」
 「え?あ、うん。」
 不機嫌そうな顔で促され、一護は何も考えることなく従った。右腕を、差し出す。
 そうして冬獅郎はエメラルド色の腕輪を一瞥すると、特に気負いのない動作でそれに手をかけた。
 パチン、と微かな音が聞こえ、一護の腕を覆っていたものがなくなる。
 「「「っあーーーーーーーーーーーー!!」」」
 あっさりと腕輪は外され、冬獅郎の懐へと仕舞われた。一部始終を見ていた観衆から絶叫が起こり、同時に周囲を覆っていた氷の壁は一瞬にしてかき消える。
 冬獅郎はわなわなと震えている一同を恐れ気もなく見渡し、勝ち誇った笑みを浮かべた。
 「これで一護は十番隊のもんだ。そうだよな?」
 「お、おう。」
 問いかけられて、一護も頷く。決められたとおり冬獅郎が腕輪を外したのだから、一護は十番隊に所属することになるはずだ。
 「そういうわけだからこれ以上騒ぎ立てるなよ。―――行くぞ、一護。」
 一方的に宣言し、冬獅郎はその場を離れる。少し躊躇ったが一護は結局冬獅郎の後についていった。
 証人はこれだけいるのだから報告に行かなくとも勝手に山本の耳には入るだろう。
 小走りに追いついて、隣に並ぶと先程の腕輪よりも鮮やかなエメラルド色の瞳が一護を貫く。冷たい光の中に少しだけ温かいものが混じっているように思えて、知らず一護は微笑んだ。



 * * *



 「屍累々って感じねぇ・・・。」
 あっさりとつけられた決着に、残された観衆はいまだ石のように固まっている。実は冬獅郎と同時にこの場に訪れていた松本はその様子を見てひっそりと笑みを浮かべた。
 のろのろと周囲の視線が松本に合わされる。それを待っていたかのように松本は楽しさを抑えきれない声で呟く。
 「あの二人付き合ってるのよ。―――知らなかったの?」
 だから一護が入隊するなら、十番隊以外ありえなかったってわけ。
 その言葉に、石になっていた身体はさらさらと音を立てながら砂になっていった。



act 7. 十番隊隊首室へ続く







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