My precious child! |
16、Heart-warming communication 朝からそわそわしているやちるの頭を、剣八は大きな手でぐしゃぐしゃとかき混ぜた。肩の上で挙動不審にされていたらこちらも落ち着かないのだが、やちるをそうさせる理由も知っているから文句を言う気もなくなる。同じく周囲にいる十一番隊の隊員たちも目を細めて副隊長の様子を見守るだけだ。 やちるは周囲のそんな視線を顧みる余裕もなく、外を見たり、暇を潰すように剣八の髪についている鈴をいじったり。そうしてもう一度外を見ては、きょときょとと視線を彷徨わせている。 しかしようやく、待ち望んでいた霊圧が近づいてくるのを感じ取って、幼い顔が喜びに輝いた。 オレンジ色の髪が目の端に映るや否や、肩から飛び降り目当ての人物の許へと全速力で走っていく。 「いっちー!」 「やちるちゃん、おはよう!」 にっこりと太陽のように明るく笑う少年の名を黒崎一護といい、ここ最近やちるの大のお気に入りの子どもだ。護廷自体が死神、つまりは大人ばかりの場所で、やちると同じくらいの年の子どもがいなかったせいか、出会ってすぐに二人は仲良くなった。ちびっこ二人で鬼ごっこをしたり悪戯をしたり昼寝をしたりと、毎日楽しそうに遊んでいる。 そして特にやちるが嬉しいことは。 「あのねあのね!昨日うっきーから金平糖貰ったの!!いっちーと二人で食べようと思ってとっといたんだ!!」 「ほんとう!?おれもよるいちさんからあめもらってきた!」 「じゃあ一緒に食べよう!」 「うん!!」 この何かを分け合って一緒に食べる、という行動がお気に入りらしい。そのために今まで絶対に誰にもあげようとせずすぐに食べていた金平糖を一護が来るまで鍵付きの菓子箱に入れて取っておくという徹底振りだ。 二人は小さな手を繋ぎあって、お気に入りの場所でお菓子を食べるべく隊舎を飛び出していった。 その様子を今まで見守っていた弓親と一角が顔を見合わせる。 「・・・一体何が楽しいんだかねぇ?」 「うーん、やっぱり今までは周りが大人ばかりだったし、対等って言うのが一番嬉しいんじゃない?。」 「子どもの考えることはわかんねーな。」 「いいじゃないか。何かこう、道徳的にいい勉強してるっていうか。子どもって日々の生活から大事なことを学んでいってるんだって結構感動できるよね。」 「お前はどこぞの母親か。」 そこでふと気付き、弓親は剣八を振り返る。 「そういえば隊長って一護君に喧嘩売ったりはしないんですね。あの子相当霊圧高いんでしょう?」 特別な霊圧制御装置を身に付けているため、隊長たち以外一護の実際の霊圧を拝んだものはないが、トップクラスに並びうるだけの可能性を秘めた子どもだと伝え聞いた。そんな逸材を、戦うことに喜びを感じる剣八が見逃すはずはない。 しかし今のところ剣八はやちるが一護と遊ぶのに任せ、手出しをしようとしたことは一度としてなかった。 やはりやちるを育てているというだけあって、子どもには優しいのか。 そんな期待を胸に抱く弓親に、剣八は頭を振ってみせた。 「あぁ?問題ねぇよ。アイツがでかくなったら手合わせするよう予約はもう入れてんだ。剣のいろはも知らねぇガキと戦りあったって楽しくないからな。将来が楽しみだぜ・・・。」 クックックッ、と笑う剣八に弓親は溜息をつく。確かに自分の尊敬する更木剣八という男はこういう性格で変わりない姿に安心したりもするのだけれど。 それでも、道徳的な教育が必要なのはこちらの方かもしれない、とちょっぴり思ってしまうのだった。 17、Fishy character…? 同性ではあるものの、まだ未発達のその身体は柔らかい。抱き上げて膨らんだ頬に自分のそれをすり寄せれば嬉しそうに笑う声が耳元で聞こえ、極上の酒に酔った時のような心地よい酩酊感を京楽に与えてくれた。 橙色の髪の毛に対するイメージか、一護の身体はいつも陽だまりの匂いがすると思う。太陽の子ども。眩しくて温かくて、尊い。だからきっと誰からも好かれているのだ。 そう考えると一層愛おしさが募って、京楽は更に頬をすり寄せた。 ―――が。 「何やってるんですか隊長。」 絶対零度の声と共にドグウッと重低音が鳴り響き、脳天に強い衝撃を受けた京楽はその場に崩れ落ちる。目の前にちかちかと星が瞬き涙が滲んだが、根性で一護の身体は離さなかった。 「きょうらくさん!?」 一護の不安げな悲鳴が耳元で聞こえる。ああ大丈夫だよ一護ちゃん。僕は君のためなら何度だって蘇ってみせるから―――。 そんなことを考えていた京楽の腕から無情にも一護の身体は取り上げられてしまった。 「一護ちゃん!」 「いい加減にしてください、隊長。一護君が穢れます。」 一護を抱き上げ京楽を見下ろしているのは、八番隊副隊長である伊勢七緒その人である。いつも優しい態度とは言いがたい接し方をされていたが、今日はその目にも声にも明らかな嫌悪が含まれている。 これは冗談ごとではない。普段から伊勢に頭の上がらない京楽は一瞬にしてそう判断し、とりあえず首を傾げて己の副官を見上げた。 「穢れるって・・・僕何かした?」 「しました。しらばっくれるのもいい加減にしてください。あといい年した男性に首を傾げられるのは可愛らしさの欠片もなくいっそ不愉快です。」 「そんなこと言われても・・・。大したことしてないじゃない。」 「"大したことしてない"・・・?」 きらり、と伊勢の瞳に物騒な光が灯り、京楽は青ざめる。地雷を踏んでしまったらしい。 「思いっきりしてたじゃないですか!一護君の顔に頬ずりを!!」 腹立たしげに紡がれた言葉に、京楽は口を開けたまま呆けた表情で伊勢を見返した。しかしすぐに我に返って詰め寄る。 「えええええ!?そこ!?そこなの!!?僕は一護ちゃんに頬ずりすることさえ許されないの!?」 「だって髭があたって気持ち悪・・・いえ、嫌じゃないですか!そうでしょう!?一護君!」 二人の勢いについていけずただ目を見開いて状況を見守っていた一護は突然話題を振られ、京楽とは違い可愛らしく首を傾げながらも伊勢の言葉に笑顔で返事をした。 「ううん?いやじゃないよ。」 一護の言葉に京楽はガッツポーズをし、伊勢は眉根を寄せる。 にこにこと笑いながら一護は言葉を続けた。 「だってね、ざんげつといっしょだもん。」 「ざんげつ?」 「うん。ざんげつもおひげはえてるから。きょうらくさんといっしょなの。」 「七緒ちゃん。"ざんげつ"っていうのは一護ちゃんの斬魄刀の名前。長身の男前なんだけど・・・確かに僕と一緒で髭生やしてたっけねぇ。」 一護の育て親という伝説の斬魄刀。その存在を話され伊勢は納得した。 確かにそれで慣れているのなら、京楽の頬ずりに安心することはあっても不快に思ったりはしないだろう。 しかし一護本人は良いかもしれないが、見ているほうは何というか―――。 「申し訳ありませんでした、京楽隊長。」 「いやいや。わかってくれたらいいさ。」 「一護君に頬ずりする隊長を目の前にすると犯罪現場を目撃しているような気分になったものですから、思わず早まった真似をしてしまいました。」 「な、七緒ちゃん?」 誤解だというのなら謝罪する気持ちは勿論ある。しかし髭面の中年が愛らしい少年に頬ずりしている様はどこをどう見ても変態の行動にしか見えず。 これでもう少し京楽が普段からきっちりした格好及び性格なら伊勢もこうまで思うことはなかったのだろうが。 「ですが本当に控えてくださいね?正直怪しいんで。」 「ひ、酷い・・・!」 「きょうらくさんはあやしくないよ?」 「一護ちゃん・・・僕に優しくしてくれるのは君だけだ・・・。」 「いいえ、一護君。一護君にとって京楽隊長は怪しくないように思えるかもしれませんが周りにとってこの人ほど怪しい人はいないんですよ。隊長の評判を傷つけたくないのなら私たちが気を付けなければ。」 「そっか・・・わかった!できるかぎりきょうらくさんにはちかづかないようにするね!!」 「!!!」 伊勢の言葉をただ信じただけだとはいえ、一護に笑顔で近寄らないと宣言されて、京楽はその場に泣き崩れた。 その後よろよろと幽霊のようにふらつく京楽に泣きつかれ、辟易した浮竹が何度も八番隊に連れ戻しに来るという光景が暫く瀞霊廷で繰り広げられることになる。 それは伊勢と浮竹が間を取り持ち、一護が京楽に普通に会いに来るようになるまで続いたらしい。 18、The best distinguished services 「こんにちは・・・。」 そうっと、出来る限り音を立てないようにドアが開き、そこから覗いた顔に卯ノ花はにこやかな笑みを浮かべた。しかしいつも元気な笑顔を浮かべ時折仕事を手伝ってくれる暖かな色をした少年の顔には、珍しく笑顔が浮かんでいない。 その表情から、少年―――黒崎一護が自分の隊を訪れた理由を察して、卯ノ花は視線を合わすためしゃがみこんだ。 「吉良さんのお見舞いですか?一護さん。」 「うん、たおれたってきいたから・・・。イヅルは?」 「今はよく眠っていらっしゃいます。お会いするならそちらのベッドへどうぞ。」 卯ノ花の言葉に一護はふるふると頭を振る。その代わり、とばかりに手にしていた淡い黄色の小さな花を差し出した。 「これイヅルがおきたらわたしてくれる?」 一護が一生懸命に考えたお見舞いだろう。卯ノ花は笑顔で承知する。 きっと今寝ている吉良も、目が覚めてすぐに少年のお見舞いが目に入ったら、喜ぶに違いない。 四番隊に引き取られている病人たちを気遣ってか、一護はできるかぎり静かな声で卯ノ花に聞いた。 「イヅルよくなるかなぁ。」 「なりますよ。大丈夫。少々お疲れになってらっしゃるだけですから・・・。」 そこでふと卯ノ花は表情を暗くする。そうすれば一護に不安がらせるだけだとわかっていたが、反射的に浮かべた表情は隠しようもなかった。 「うのはなさん?」 「いえ・・・一時的に良くはなりますけど、吉良さんは繰り返し今日のように倒れるかもしれませんね。」 「どうして?」 卯ノ花は暫く迷うようなそぶりを見せていたが、一護が重ねて問うとやがて躊躇いながらもぽつぽつと理由を述べ始めた。 「吉良さんの症状が軽くなっても根本的な問題が解決しなければ同じことを繰り返すだけです。」 「こんぽんてきなもんだい・・・?」 「ええ。吉良さんが倒れた大きな原因が。」 「そんな・・・。」 「でも解決できないことではありません。そのためにも一護さんに私からお願いがありますの。聞いていただけますか?」 「おれにできることならなんでもするよ!」 元気のいい返事に、卯ノ花は目を和ませる。そして小さな手をそっと握って、わかりやすいようゆっくりと”解決策”を一護に話し始めた。 大人しく話を聞いていた一護は、卯ノ花の説明が終わるや否や真剣な顔ですぐに走り出していった。目的地は、隣の三番隊。 ちょうどそこへ帰って来た花太郎が顔を出す。 「ただいま戻りました。・・・一護君、すごい勢いで走っていったんですけどどうしたんですか?」 「すぐにわかりますわ。」 卯ノ花がそう応えるとほぼ同時に、愛らしい、けれども怒りのこもった叫び声が響き渡る。 『ギンのばかー!!ちゃんとおしごとしないでイヅルにめいわくかけるギンなんて、だいっきらい!!』 『い、一護ちゃん!?』 『これからもおしごとためるんだったらもうにどとギンとはあそばないから!』 『待って!一護ちゃん!!そんなこと言わんといて―――』 次いでどたどたと走り去る音。鈍い音がしたからきっと追いかける途中にどこかで足でも強打したのだろう。足音のうち軽い音の方は止むことがなかったから、打ったのは間違いなく市丸の方だ。 四番隊に来ることにならなければいいが、と思いながら卯ノ花は状況が把握できていない花太郎に笑顔を見せる。 「一護さんが言うことだと皆様素直に聞いてくださって本当に助かりますわ。先日浮竹隊長が病身を大切にしてくださらないと困ると相談したら一護さんが伝えてくださったらしく無理をなさらないようになりましたし、それから京楽隊長も。何度言ってもお酒を控えてくださらなかったのに今では休肝日を設けてくださるようになったとか。」 「もしかして隊長。わざと・・・?」 「私は事実を忌憚なく申し上げただけですのよ?ああでもこれできっと吉良さんもきっちり休めるようになるでしょう。」 ちなみに今回吉良が倒れたのは、過労が原因。市丸のサボり癖は既に有名なもので、そのとばっちりを一身に受けている吉良が働きすぎで倒れることは予想されたものだった。今はよく眠っているのできっとすぐに回復できるだろうが、繰り返されては完全に治ったことにはならない。だから卯ノ花は一護にそれらのことをわかりやすく丁寧に教えたのである。 期待通り、一護は吉良の倒れた原因が市丸にあることを理解し、これ以上サボらないようしっかりと釘をさしてくれた。いくら市丸と言えども一護には逆らえまい。しかも一護は計算してではなく、純粋に、真剣な気持ちで心配しているだけなのだから。 鈴が鳴るような笑い声をたてながら、一件落着ですわねと話す己の上司を見て、花太郎はとばっちりを受ける人々に心の中で合掌しておいた。 19、Pardoner 意識を失っている間にベッドの脇に置いてあった一輪の花。 その可憐な見舞い品が愛しい子どもから贈られたものだと聞いて、ひどく幸せな気分になった。 * * * 「イヅル!げんきになったの!?」 満面の笑みでそう言いながら走ってきた一護を優しく抱きとめて、イヅルは柔らかな笑みを浮かべた。その顔色は先日に比べれば随分と明るい。 「うん、もう平気だよ。お見舞いに来てくれたんだってね。ありがとう。」 「えへへ。・・・あれからギンはちゃんとしごとしてる?」 「一護君に怒られて懲りたみたいで、今までが嘘のように頑張ってるよ。」 だからそろそろ無視するのはやめて会いに行ってくれないかい?と連日落ち込みながら仕事をしている上司を思い浮かべながら頼み込むと、一護はやや考えてから首を横に振る。 「・・・だめ。もうちょっと。」 「隊長のこと嫌いになった?」 「ううん。ギンはすきだけど、でもやっぱりイヅルをびょうきにさせたことはおこってるからあともうちょっとがまんする。」 怒ってるという割には一護の表情も寂しそうで、イヅルは苦笑した。自分のために怒ってくれることは嬉しく一番の薬になったし、上司の勤務態度も劇的に良くなったのだからもう十分だ。 イヅルはそっと小さな頭を撫でた。 「・・・倒れたのは確かに市丸隊長が仕事をサボっていたせいもあるけど、でもそれ以上に僕がきちんと自己管理できてなかっただけだよ。隊長もすごく反省してるし一護君さえよければもう許してあげてくれると嬉しいな。」 イヅルの説明に一護は迷う素振りを見せる。まだ許していいものかどうか葛藤が残っているらしい。 しかしこれ以上あの市丸がキノコでも生やしそうなほど鬱々と日々を過ごしている姿を見るのは耐えられないし、一護にしたって市丸は同じレベルで力いっぱい遊んでくれるよい遊び仲間だ。我慢せずに遊びたいなら遊んで欲しい。 それに一護が市丸と遊ぶために三番隊に来てくれれば、自動的にイヅルも一護に会える。 「隊長のこと、許してあげてよ。」 畳み掛けるようそう頼むと、ようやく小さな頭は頷いてくれた。 * * * 「しっかし・・・お前もよく許したな。」 一護が市丸に会いにいってから数日後、共に昼食を取りながら恋次が呟く。イヅルが倒れたのは自己管理云々の問題ではなく確実に市丸のせいであって、日頃からかの人のサボり癖の酷さに迷惑していることを十分に知っていたので、イヅルが自ら一護に頼み込み市丸との仲直りをさせたことが不思議でならないらしい。 今や市丸は前の調子を取り戻し、すっかり元気に日々を送っている。 恋次の尤もな言葉に、イヅルは微笑した。 「まぁ・・・仕事してくれるとはいえあんな酷い調子の隊長は見ていてちょっと・・・三番隊の士気に関わるしね。それに一護君の言葉は相当効いたみたいで昔に比べたら随分まともに仕事するようになったし。」 「つってもお前が残業していることに変わりはないじゃねぇか。」 「そうだけどさ。でも・・・。」 ふ、とどこか遠い目をして、イヅルは笑った。先程の困ったような人の良さを表した笑みではなく、今度はどこか物騒な、それ。 「ここで簡単に恨みを晴らすより、恩を売っといたほうが後々得になるかな、と思って。ほら、一護君は僕の味方だから。」 「・・・・・・。」 絶句。 内緒にしておいてね、と笑う同僚に、恋次はただ青褪めた顔のまま頷くことしかできなかった。 最近お前卯ノ花隊長に似てきたんじゃねぇか、というツッコミは心の中だけに留めつつ。 20、Could you come to like me? 「ねぇ、おれきれい?」 突然そう問われて、弓親は現世では有名とされている童話を思い出した。継母に城を追い出され森に迷い込んだ美しいお姫様。七人の小人の家で穏やかに暮らしていたが執念深い継母に毒林檎を食べさせられてしまい、息絶える。けれども葬儀の途中王子様が通りかかりキスで生き返るという子供向けに都合よく改良されたあのストーリーだ。確かタイトルは「白雪姫」だったはず。 その継母が不思議な鏡を持っていて、その鏡に対して「世界で一番綺麗なのは誰?」と聞いていた記憶がある。丁度今の一護のように。 そうなると僕が鏡の役で継母役は一護君ということになるのかな、うわぁミスキャスト、などと思いながら目の前に立つ少年を見返した。 ここはやはり魔法の鏡よろしく、率直な意見を述べるべきなんだろうか。 「うーん・・・一護君は綺麗って言うよりは寧ろ可愛いと思うけど。」 真直ぐな性格や鮮やかな橙色の髪の毛は綺麗だと思うが、全体的に一護を表すとするならやはり”可愛い”という言葉が一番適しているに違いない。そう思ったのだけれども。 しかし弓親の言葉はお気に召す答えではなかったのか、一護の顔がみるみる悲しげに歪んでいく。今にも泣き出しそうな気配に、理由はわからないがおそらく原因は自分だろうということくらいは察した弓親は慌てふためいた。 「ど、どうしたの?一護君。僕何かいけないこと言った?」 「だって・・・。」 「うん?」 「ゆみちかさんきれいなものがすきだって・・・。」 「・・・え?」 確かに綺麗なものは好きだけれども。 よく堂々とあちこちでそういうことを公言して憚らないけれども。 それが一体なぜ今のこの状況に関係するのか短い間に必死に考え、弓親は一つの可能性を導き出した。 「ああ・・・。それでもしかして一護君は自分の事が綺麗かどうか僕に聞いたの?」 こくり、と小さな頭が目の前で縦に揺れる。 真剣なその様子に悪いとは思いつつもつい笑ってしまった。 どうやら弓親が綺麗なものが好きだと聞いて、好かれているのか好かれていないのかを一護に気にしてもらえるくらいには、自分は好意を寄せられているらしい。綺麗なもの"だけ"を好んでいるわけではないのだが、素直なその思考にただ笑みばかりが浮かぶ。 可愛いなぁ、としみじみ思いながら、弓親は誤解を解くべく未だ暗い顔つきの一護の顔を覗きこんだ。 「僕は確かに綺麗なものは好きだけど、可愛いものも好きだし一護君のことはもっともっと大好きだよ?」 「・・・ほんと?」 恐る恐るこちらを見返してくる様が何とも愛らしい。こんな風に真直ぐ思ってもらえるとは予想していなかったので、弓親はその美しい顔に微笑を浮かべる。普段浮かべるシニカルな笑みとは違い、ただ暖かな感情に動かされた柔らかな表情だ。 自分がこんな風に笑えるということ自体、驚きである。そんな大きな影響を与える存在を、どうして好きになれずにいれようか。 「うん。だって一護君可愛いし。それに大きくなったら美人さんになるだろうし。だから心配しないで、ね?」 その言葉に安心したのか、一護はへにゃりと笑み崩れる。それがなおさら可愛くて弓親は小さな身体を抱きしめた。 * * * 「僕、綺麗なものも好きだけど可愛いものも好きだってちゃんと言っておかなきゃいけないみたいだよ、一角。」 「・・・あん?」 休憩時間を終え、やけに機嫌よく開口一番そう言った弓親に一角は怪訝な表情を浮かべた。 「そしてそれ以上に一護君も大好きだって主張しておかなきゃいけないみたい。ふふ、じゃないと心配になるんだってさ。」 「何言ってんだお前・・・。」 当たり前のことだが、人に何かを伝えたいのなら最低限の説明をしてほしい。 しかし一角のその願いはあっさりと無視され、弓親は高らかに笑い声をあげた。 |
16〜20話へ続く |
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