「一護受15TITLE」(配布元




<2>



一度目の出会いは偶然だった。二度目も偶然に期待―――するくらいなら、己の力でどうにかする、というくらいには檜佐木は我の強い男である。




 *  *  *




 死神のお偉いさんから、瀞霊廷通いを義務付けられた時、まぁ仕方がないかな、と一護は思った。
 人間とは言え死神の力を持った自分を見逃すとは思えないし、敵として処分されてもおかしくない状況であったにも関わらず、放課後や休日など、時間の都合がつくときだけくればいいという妥協策は有難いものだった。
 大体、虚倒しも一護は辞めるつもりはない。それなら瀞霊廷に属していたほうが、何かと便利である。
 と、いうわけで、一護は今日も穿界門をくぐり瀞霊廷にやってきていた。
 ルキアの知人ということもあって、一応一護の所属は十三番隊ということにされている。早速そちらに向かおうとしていた矢先、一人の男が立ちふさがっているのが見えた。
 顔に3本傷のできた、長身の死神。
 「・・・よお、久しぶりだな。」
 先日会った檜佐木修兵という男だ。一護に興味を持って声をかけてくる死神は多く、彼もその一人だった。けれども一護は少しだけ違った印象を修兵に持っている。
 一護を見た時の檜佐木の反応が何というか、ひどく淡白なものだったからかもしれない。良くも悪くも話題になった一護への視線は不躾なものが多く、近づいてくる輩も好奇心を前面に出した、一護にとって鬱陶しいものでしかなかった反面、死神といえども俗物的なところがあるんだな、と妙なところに感心したものである。
 それなのに、檜佐木は何の感情もうかがわせない目で、まっすぐに一護を見ていた。いい加減、見知らぬ死神から声をかけられるのが面倒で愛想の欠片もない口しか聞けない一護を、怒るでもなく笑うでもなくただ見ていただけだった。
 新鮮な反応である。一護はささやかな感動を覚えた。
 その彼がなぜか―――まるで一護を待ち伏せしていたかのようにここにいる。
 「・・・俺を覚えてるか?」
 「覚えてる。檜佐木修兵、だろ?」
 戸惑いながらも、近づく。どうせ檜佐木が立ちふさがっている道を行かねば目的地にはつかない。
 真正面に立って、檜佐木の顔を見上げた。
 何か用事があるのかと思ってそのまま反応を待っていたが、特に向こうから話し出す気配はない。無表情で目の前に佇んでいるだけだ。
 「・・・なぁ、俺行かなきゃならないんだけど。」
 「十三番隊に?」
 「そう。だから―――。」
 通してくれ、という前に、檜佐木の身体が一護の前から退く。まさか喧嘩をふっかけてくるとか、嫌がらせの類じゃないだろうな、と考えていた一護は心底ほっとした。
 が、歩き出すと、その横を檜佐木がついてくるのである。
 改めて、彼と向き合わざるえない。
 「・・・何?」
 「十三番隊までの道を共に行くぐらい構わんだろう。」
 次いで言われた言葉に、驚いた。
 「・・・じゃなきゃお前を待っていた意味がない。」
 目を見開いて、まじまじと檜佐木の顔を観察する。相変わらずその顔にはどんな表情も現れておらず、ただ冷たい視線を一護に返すばかりである。
 ただ一度短い邂逅を経た男が何故わざわざ自分を待っていたのか。特に何かを話した覚えもないのだが。
 見つめていても、男の本意がちっともわからなかったので、一護は素直に聞くことにした。
 「・・・なんで。」
 「会いたかったからな。」
 「だから、何で。」
 「顔が見たい、と思って。」
 予想外だ。聞いてもちっともわからない。無表情の男が何を望んでいるのか、なんて。
 「アンタわけわかんねーよ・・・。」
 だから、自然に呟きが口から出た。別にそれに対しての答えは期待していなかったのだが、檜佐木はこの呟きこそに、明確な答えを返してくれた。

 「そうか?ならお前に一目ぼれしたんだと有体に言えば少しはわかりやすいか?」

 聞こえてきた言葉に、一瞬己の耳を疑った。今まで耳に異常があったことはないが、まして今この瞬間だけ異常になったとも考えにくいが、それでもその言葉が檜佐木から出されたものだとは信じられなかったのである。
 「あ、んた、何、言って。」
 「俺もまさか一目ぼれを体感するとは思わなかったがな。」
 「―――ッ冗談!」
 「悪いが俺は本気だ。」
 「だって・・・!!」
 違うだろう、と思う。一目ぼれ、なんて俄かには信じがたい言葉を使って今まさに一護に告白らしきものをしている男の顔には一切の感情が浮かんでいないのだ。一護の知識では告白する人間なんてものは、もっと感情の昂ぶり―――例えば緊張でも興奮でも、何でもいいからそういった類のものが現れる筈である。
 けれども檜佐木の様子は冷静、いっそ冷淡と言ってもいいくらいに静かなものだ。だから、一護にはからかわれているとしか思えない。
 「ひ、一目ぼれっていいながら、アンタ全く普通じゃねーかよ・・・。」
 我ながら、しどろもどろな情けない声だった。檜佐木が冗談だ、と、何て顔してんだお前、とでも笑い飛ばしてくれればいい。そう願いながら。
 それなのに、一護の常識を裏切ってばかりの男は、ここでもその才能を如何なく発揮してみせたのである。
 一護を襲ったのは、背筋が冷たくなるほどの、冴え冴えとした霊圧の波だった。
 「―――そう、見えるか。」
 気がつけば、一気に檜佐木の顔が目の前に迫っている。腕を捕まれて引き寄せられたのだと知ると同時に、一護は初めて檜佐木の目の奥を間近で見ることとなった。
 冷たい、焔。
 「俺が、普通にしてるように、見えるか。」
 表情は至って変わらないのに、突然霊圧だけ雰囲気を変えた男の言葉に逃げ出したいと思いながらも叶わず、一護は僅かに首を縦に振る。
 「俺はこのままお前を縛って連れ去って、いっそのこと誰の目にも触れぬように監禁したいくらいのことは考えているんだがな。」
 「・・・ッ!!」
 感じたのは、紛れもない恐怖だった。この信じられないことばかり言う男の腕から逃げ出して、耳を塞いでしまいたい、と切実に思う。
 もう少し、檜佐木に見つめられたままだったら、ここが何処かということも考えず斬魄刀を抜いて一護は暴れだしてしまっていたかもしれない。
 そうなる前に、檜佐木が自ら一護の傍を離れた。
 一定の距離を保たれようやく安堵の息をもらした一護の耳に、檜佐木の抑揚のない声が届く。
 「迎えが来たな。」
 「・・・え?」
 檜佐木の視線の先を見ると、人影がこちらに向かっているのが見えた。
 ルキア、だ。
 向こうもこちらに近づいたらしく、さかんに何かを言いながら手を振っている。どうやら早く来いと急かしているらしいことはわかった。何か急ぎの仕事でもできたのかもしれない。
 改めて、檜佐木を見る。檜佐木も一護を見た。
 何を言うべきか、言わないべきなのか。考えが纏まらなくてただ怯えた目で檜佐木を見ることしか一護には出来ない。そんな一護に檜佐木は何か言いかけたが―――。
 結局は、背を向けた。
 遠くなる檜佐木の背をぼんやりと見つめながら、一護はただ修兵の目の奥に燃える冷たい焔を思い浮かべることしかできなかった。



<3>に続く







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