愛 「一護受15TITLE」(配布元) |
<5> 一度目のキスはあっという間の出来事だった。状況が状況だった所為もあったが、あまりに一瞬の出来事だったので、うっかり流してしまった。というか、された時点では他の事に気を取られすぎていて自覚すらなかった。 二度目のキスは一度目の後にすぐされた。今度は流石に流せないくらい、しっかりと。 嫌ならば、抵抗すべきだった。恋人同士でもないくせに。 それなのに、一護はそうしなかった。否、できなかったのである。 実は一護は、馬鹿馬鹿しいことに、檜佐木の唇は冷たくて硬いだろうというイメージを持っていたようだった。だった、と過去形になるのはされた後に気付いたからである。多分今までの檜佐木の印象のせいだろうが、何とも安易なイメージだ。 しかし実際に触れた唇は柔らかかったし、温かかった。本気で驚いた。 あまりのイメージのギャップに呆然としているうちに檜佐木はその場を去ってしまった。だから一護は二度目のキスさえも許容、というか、黙認したことになる。 一度ならず二度までも許してしまえば、三度目から断るのは難しい。 檜佐木は会うたびにまるでそれが当たり前のように一護に口づけるようになった。唇に限らず、頬や瞼や額にも。 一護だってそれをやすやすと許そうと思っているわけではない。思っているわけではないけれども、檜佐木のキスを仕掛けるタイミングは読みづらいのだ。あれ、と思ったときにはもうされている。自分の経験不足の分を差し引いたとしても、一見感情を判断できない無表情は得である。 流石に舌を入れられたときには本気で抵抗したが、それすらも力で抑えられて次第に流されて終了、だ。あんなエロいキスがあるなんて、一護は初めて知った。否、知らされた。 もう何度キスしたかわからない。 キスをされることもそれに文句を言うこともまるで日常にされていくようで、一護は驚愕と、本能的な恐怖と、躊躇いを感じずにはいられなかった。 * * * 口を口で塞がれて顎も掴まれているから顔は動かせない。両足をバタバタ動かしても腹の上に乗り上げている男はダメージなし。せめて唯一自由に動く腕だけでも男の身体を離そうとするのだが、自分よりガタイのいい人間に上から体重をかけられているとそれも難しい。 何より悔しいことに、腕にあまり力が入らないのだ。 それはキスの所為ではなくこの体勢の所為だ―――等と言い訳にもならないようなことを考えながら、一護はそれでも必死に今出せる限りの力を腕にこめて、男の身体を押し返す。 一護の心情を理解してくれたのか、それともそういう気分だったのか。檜佐木はようやく唇を離した。 「・・・何しやがる。」 「そ、れは、こっちの台詞だろ・・・馬鹿。」 整わぬ息が不慣れさを示しているようで恥ずかしい。不機嫌な男の声にこちらも精一杯の不機嫌そうに答えながら、一護は部屋にかけてある時計を見上げた。 「げ。」 門限が迫っている。 家にはコンがいるとはいえ、まるで性格の違うあの改造魂魄に自分の身体でうろつかれるのは落ち着かない。だから、出来る限り早く帰りたい。大体尸魂界にもただ近況報告に来ただけで早々に辞去するつもりだったのだ。それがこの男に捕まってしまったせいで長々と居座る羽目になってしまった。 どうにか檜佐木の下から這い出し、少し乱れた着物を調える。最近キスだけではなく、隙あらば着物の襟元から手を突っ込もうとするから性質が悪い。 まだ力が入らないことを誤魔化すように、勢いをつけて立ち上がった。 「・・・帰る。」 檜佐木は、一護が帰る支度をする間、何も言わずにただ一護を見つめていた。一護がこの時間になれば帰ろうとすることは今までの経験上檜佐木もわかっていることだったろうし、貪るようなキスをされた後はどこか気まずい雰囲気のまま一護が去っていくのは常だったから。 しかし、唯一常とは違い、檜佐木のほうに背を向け襖に手をかけた瞬間、一護は鍛えられた腕に抱き締められていた。 「何す・・・!」 「このまま。」 一護の文句を遮るように、檜佐木が口を開く。その声は落ち着いたものであるのに、何故か切実な響きを感じて身動きが取れなくなる。 身体に回されたむき出しの二の腕は、同じ男であるにも関わらず一護のそれと違い逞しい。よく考えれば、今までこの腕の中から一護が逃げられたためしなど一度もなかった。 「・・・帰さない、って、言ったら・・・?」 心臓が、止まるような錯覚。よりにもよって、人の耳元でそんな台詞を。 馬鹿言うなと、肘鉄でも食らわして、怒ったふりをして帰ってしまいたかった。けれどもぴったりと密着したこの体勢ではそれは難しかったし、何よりも檜佐木の言葉が与えたショックで身体が動かない。 固まっているうちに、首筋をがぶりと噛まれた。辛うじて悲鳴は飲み込む。 声すらも、出せない。違う。こんなのは。 俺は。 不意に束縛が解けて、背中を軽く押された。よろよろと部屋の外に出た一護の背中に檜佐木の声が被さる。 「・・・お前は俺をどこまで許すんだろうな。」 え、と思ったときにはもう襖は閉められていた。一護はぼんやりと振り返ったが襖を開ける勇気が出るはずもなく、ただただ立ち竦む。 「檜佐木?」 噛み付かれた首筋が、じくじくと鈍い痛みを訴えていた。 <6>に続く |
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